企業に経営改革を求めるアクティビストが存在感を増している。かつて「強欲」「ハゲタカ」のレッテルを貼られた彼らは今、洗練された形で舞い戻ってきている。本場米国市場で鍛えられた“最強投資家”にとって、ガバナンス後進国ともされる日本の企業社会は格好のターゲットだ。特集「アクティビスト 日本襲来」(全12回)の#1では、彼らの進化の背景や、新たな手口に迫る。(ダイヤモンド編集部副編集長 布施太郎)
アクティビストからの書簡、立ちすくむ企業
8月中旬、1通の英文の書簡が滋賀銀行の本店に届いた。宛名は同銀の高橋祥二郎頭取。差出人は、英ロンドンに本社を構えるアクティビストファンド、シルチェスター・インターナショナル・インベスターズだ。ダイヤモンド編集部が入手した書簡には、滋賀銀の株式を、非公開分も合わせて9.1%保有しているとつづられていた。
また、自らを「アクティビスト投資家ではない」と記す一方で、同銀のコーポレートガバナンスが不十分であり、配当などの資本政策が適切でないと指摘。その上で、取締役の一部交代や、普通配当の増配、自社株買いなど株主還元策の充実を求めた。
しかも、ガバナンスや資本政策の改革策を早急にまとめ、11月に予定されている9月中間決算開示のタイミングに合わせて公にするよう要求。発表がない場合は、同ファンドとして公式声明を出すことや、さらには来年6月の株主総会で、自らの主張を通すための株主提案を行う可能性にまで言及した。
「シャンシャン総会」が“善”とされる日本の企業社会で、株主総会の大荒れは経営陣にとっては何としてでも避けたい事態だ。まして、株主提案の議案が上程されることなど、悪夢としか言いようがない。
滋賀銀はこの件について「コメントは差し控える」(広報)としており、経営中枢がこの書簡をどのように受け止めているのかは推し量るしかない。しかし、「普通の企業なら、こんな書簡を送り付けられたら慌てて対応策に奔走し始めるだろう」と、アクティビスト対策を担当する証券会社幹部は話す。
滋賀銀は今年度から、新しい5カ年の中期経営計画をスタートさせた。だが、ガバナンスや資本政策などの文字はあるものの、配当性向や株主還元策などに対する具体的な数値や目標には一切触れていない。低金利の長期化で銀行業界は先行きの見通しが暗い上、滋賀銀は「上場しているにもかかわらず市場へのメッセージをほとんど発していない。機関投資家からもあまり相手にされていない」(銀行アナリスト)と評される地方銀行だ。
国内ではそんな評価だが、株価の割安度を示すPBR(株価純資産倍率)は0.35倍にとどまっており、「業種はともかく、アクティビストが狙う割安銘柄」(前出の証券会社幹部)とはいえる。