『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』では「組織文化」をテーマに、それを知り、変え、進化させていく方法を紹介しています。組織文化を知り、そして変えるにはときに痛みが伴います。そのために必要な覚悟について、今回はお伝えします。
痛みに向き合う覚悟はあるか
組織文化を変えようとするときには覚悟が必要です。
なぜなら、時には居心地の悪さや痛みを覚えることがあるからです。それを克服しなければ、強い組織に生まれ変わることはできません。人間の発達プロセスを明らかにする成人発達理論でも、人が成長するときには痛みを伴うとされています。
人も組織も成長の過程は同じです。
腕立て伏せを100回できるようになるという目標を掲げたとしましょう。最初は苦しくて30回しかできなくても、トレーニングを積むことで100回まで簡単にできるようになります。
これは、その人がトレーニングという痛みを伴って成長したことで「アンカンファタブル=Uncomfortable(心地の悪い)」な状況が、「カンファタブル=Comfortable(心地の良い)」な状況に変化したからです。
さまざまな制約のある中で、痛みを伴う努力によって自分が置かれている心地の悪い状態から心地の良い状態に変化させていくことが、人間の成長です。
上の図にあるように、人間の置かれた状態には三つの空間があります。
最も内側にあるのが「コンフォートゾーン(快適な空間)」です。状況や環境に不安を感じない心地良い空間で、意識をしない普段の行動は、コンフォートゾーンの中にいる状態だと考えてください。
コンフォートゾーンの外側にあるのが「ラーニングゾーン(学びの空間)」です。自分の能力を超える仕事やスキル、未知の体験をするときに不安がある状態を指します。
無意識に行動できる慣れ親しんだ状態から一歩踏み出しているので、ラーニングゾーンは心地の悪い状況です。これを心地の良い状況に変えようと意識的に努力することで、人は成長します。これは最近、企業でも導入が進む「越境学習」と同じようなものです。越境学習では異なる業界や業種、地域や環境に身を置くことで人材育成を図ります。
ラーニングゾーンの外側にあるのが「パニックゾーン」と呼ばれる危険な空間です。ここでは自分の能力をはるかに超える水準を求められるため、精神的にも肉体的にも追い込まれた状態になります。
繰り返しますが、成長については人も組織も同じような過程をたどります。
人や組織が成長するには、ラーニングゾーンに飛び出す必要がありますが、パニックゾーンまで飛び出してしまうと必要以上の負荷がかかり非常に危険な状態になります。ここに連れていくのは勧めません。
筋トレにたとえると、ラーニングゾーンは適切な強度のトレーニングでほど良い筋肉痛を感じますが、パニックゾーンは過度な強度で筋断裂を起こしてしまう危険な状況です。
また常にラーニングゾーンにいると、緊張が張りつめたままで疲弊し、成長から遠ざかってしまいます。
人や組織が成長するときには、コンフォートゾーンとラーニングゾーンをうまく行き来するのが理想です。そのうえで、なるべくラーニングゾーンにいる機会を増やし、少しずつラーニングゾーンを広げていくこと。すると、もとはパニックゾーンだった部分もラーニングゾーンへ変わり、以前は自分の能力を超えていた高度な課題にも対処できるようになります。
現在の知識や過去の成功体験を捨て、違うものを受け入れることで、人や組織は成長します。
慣れ親しんだ価値観を手放し、違和感のある価値観を受け入れるのは怖いものです。心地の良さを手放さなくてはならないわけですから、人も組織もアンラーンが得意ではありません。痛みを伴うとなれば、なおさらでしょう。それでも乗り越えていくと新しい自分に変わっていきます。これこそが成長の本質です。
組織文化に良し悪しはない
すべての組織に文化があります。良い文化も悪い文化もありません。
それぞれの組織の中にある普段は言葉にしないけれど何となく共有されている価値観、そんな組織固有の暗黙知が組織文化です。
現在、あなたが所属する組織の文化は自分たちの理想とする姿につながっているでしょうか。
(『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』第二章より抜粋)
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