目の前の問題は、
背後にある問題を
知らせてくれるアラート

 悪循環は組織を蝕み、前述した依存症を生む構図をつくっていきます。

 ここで大切なことは次の2つです。

 一つは、目の前で見えている問題は、背後にある問題を知らせてくれるアラートであること。

 もう一つは、そのために他者の声や視点がとても重要であること。

「目の前で見えている問題は、背後にある問題を知らせてくれるアラート」とはどういうことでしょうか。

 先の「DXの遅れ」は、DXが問題ではありません。

 組織の中で大事なことが慢性的に後回しになっており、そうしたやっかいな問題に手をつける術が見出せない慢性疾患が表面化してきているのです。

 たとえば、各部署の顧客情報がバラバラで、顧客への対応がチグハグなとき、社内システムの連携のなさが問題として現れます。

 しかし、背後では、部署をまたいだシステム連携にどうやって取り組んだらいいかわからなくて困っているのかもしれません。

 それが「DXの遅れ」という問題として浮上してきているのかもしれないのです。

他者の声や視点が
とても重要になる理由

 そこで、他者の声や視点が重要になってきます。

 一度他者の視点を経由することで、問題がまったく違った姿として立体的に見えてくるからです。

 ここで、新規事業開発にあたり、部署間で顧客情報がうまく共有されない問題を例に考えてみましょう。

 各部署が協力してくれない問題として当事者には見えるかもしれませんが、相手部署からすれば、共有された情報がどんな意味を持っているのかわからず、連携の意義を理解できていないのかもしれません。

 こんなときに、他者の声や視点から自分たちが困っている問題が語られると、相手部署が協力しない問題の一部に自分たちが関わっていることが見えてきます。

 すると、情報連携の仕方、読み方、活用の仕方を少し変え、この問題への対処方法が見えてきます。

 自分が問題の真っ只中にいて、問題の一部を構成していると気づくことはとても大切です。

 モヤモヤした問題の正体が見えれば、具体的な打ち手が自然と見えてくるからです。

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宇田川元一(うだがわ・もとかず)
経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。