組織の慢性疾患に対処する
ミドルの役割
この本は、おもに企業で働くミドル・マネジャーを想定して書きました。
その理由は、組織の慢性疾患がミドルという立場に表現されやすく、問題を実感しやすい立場だからです。
それは裏を返せば、ミドルの方々こそ、組織の慢性疾患に対してセルフケアを実現していくと、変革の手応えが一番実感できるのです。
慢性疾患には、日々途切れなくその病とつき合わざるをえないイメージがあります。
事実、組織で働く多くの人たちは、身体感覚を伴いながら、組織の慢性疾患の痛みに苦しんでいるのではないかと思います。
組織の慢性疾患へのセルフケアを行えないことが、今日の企業社会をいわば「問題解決策依存症」へと陥らせているのではないでしょうか。
何かガラッと企業を変えてくれる手法はないのかと、次々と現れる問題解決手法やコンサルティングサービスに飛びついてはまたダメだったと徒労感に見舞われる。
すると徐々にあきらめが蔓延し、それを紛らわすために違う解決策を探しさまよう人たちの姿を目にすると、本当にいたたまれなくなります。
「問題解決策依存症」とは、手のつけどころがわからない複雑な問題に対し、手近にある解決策を取り続けている状態のこと。
でも、自分たちで手を携えてやっかいな問題にも手をつけられるのだと実感が湧いてくれば、この依存症から回復することができます。
そして、確かな変革への手応えを感じながら歩み始めることができるのです。
だからこそ本書を通じて、ミドルの方々には、以下のような効果を実感してもらえたらと思っています。
1.自分も相手も見えている風景が変わる
2.自分でしょいこんでいた荷物をおろす方法がわかる
3.人の力を借りられるようになる
4.ひとりで悩まなくなる
5.4人1組の「2 on 2」で言語化できないモヤモヤの正体が現れる
6上司と部下が協力し合える
7組織が変わる
私はこの中でも、「3.人の力を借りられるようになる」ことが一番大きいと感じています。
これらの実感を得られるよう、組織の慢性疾患へのセルフケアを、手応えを感じながら実践できるようにする。そして、セルフケアし続けられるようになる。それが本書の目指すものです。
一体、この先どうしたらいいのかと途方に暮れる組織のやっかいな問題の中にこそ、ぜひ希望を見出してください。その対処方法をこの本でつかんでいただけたら幸いです。
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経営学者/埼玉大学 経済経営系大学院 准教授
1977年、東京都生まれ。2000年、立教大学経済学部卒業。2002年、同大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。2006年、明治大学大学院経営学研究科博士後期課程単位取得。
2006年、早稲田大学アジア太平洋研究センター助手。2007年、長崎大学経済学部講師・准教授。2010年、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。
専門は、経営戦略論、組織論。ナラティヴ・アプローチに基づいた企業変革、イノベーション推進、戦略開発の研究を行っている。また、大手製造業やスタートアップ企業のイノベーション推進や企業変革のアドバイザーとして、その実践を支援している。著書に『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)がある。
日本の人事部「HRアワード2020」書籍部門最優秀賞受賞(『他者と働く』)。2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。