銀行の態度を一変させる一手

 でも江頭さんは考えました。ここが、江頭さんがIdiosyncraticなひとつめのところです。重厚長大産業に長期融資することで戦後の復興に大きな役割を果たしていた日本興業銀行からお金を借りよう、と思ったのです。

「天下の興銀」からお金を借りることができれば、都市銀行もみな喜んで貸してくれるだろう。地方銀行や、信用金庫や信用組合も貸してくれるに違いない。全部借りて、大きな投資をして外食チェーンを作り上げようと考えたんですね。そして実際に興銀の福岡支店に足を運んだ……。

 当然のことながら、門前払いもいいところだったようです。中には「飲食業の産業化なんて」と苦笑する支店長もいたようです。

 でもIdiosyncraticな人は、そんなことではへこたれません。興銀通いをずっと続けているうちに、ムラセヤストシ(カタカナで書く理由はあとでわかります)という支店長に出会います。この人だけは江頭さんの話に耳を傾けてみようと考え、会食がセットされました。

 場所は料亭。しかもムラセヤストシは、はかま姿で来た。このあたりは時代がうかがわれます。その席で江頭さんは、外食チェーンなるものをどうしても作りたいと必死で訴えた。最後までじっと聞いていたムラセは、最後の最後にポツンと、「飲食業には人材が少ない。あなたでも相当なことをやれるかもしれない」と言ってその日は別れたそうです。