興銀にとってのロイヤルホスト

 江頭さんは、当時の興銀福岡支店長であるムラセヤストシさんのことを、恩人だと「私の履歴書」に書いています。後日談として、江頭さんが会長職を辞したときには、そのムラセさんが訪ねてきて金一封を差し出し、「よくやりました」と言ってくれたという話も書いていらっしゃいます。

 この話は(口悪く喩えて言えば)街の食堂に毛の生えたようなビジネスをしていた中小企業のオヤジさんが「飲食業を産業化したい、外食チェーンビジネスを作りたい」という、トンでもないビジョンを持った。そしてそんなトンでもないビジョンに賭けようとした金融人がいたという話です。

 それまで重厚長大産業を中心に産業育成・融資を行っていた興銀が、サービス産業にも融資をし、育てていく嚆矢となった。江頭さんもムラセも、甲乙つけがたい見事なIdiosyncratic Visionを持ったビジネスマンだったと言ってよいのではないでしょうか。

 実はこのムラセヤストシというのは、私のおじいさんです。正確には大叔父さんなのですが、本当のおじいさんは二人とも早く亡くなってしまったので、私にとってはこのムラセがおじいちゃんのような存在だったのです。かっぷくが良かった(単に太っていた)ので「おすもうおじいちゃん」と呼んで随分可愛がってもらいました。村瀬泰敏と言います。

 江頭さんの「私の履歴書」を読んだ当時、私はまだ経営コンサルタントをやっていたのですが、金融という仕事には、経営者に賭け、経営者とともに育つという価値があるんだなあと思いながら読んでいました。もしかしたらそれが、自分自身、15年前に経営コンサルティング業界から投資事業に転身した理由の一つになっているのかもしれません……。

参考文献
「私の履歴書 江頭匡一1~30」『日本経済新聞』1995年5月1日~5月31日

(本原稿は『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』の内容を抜粋・編集したものです)