『入社1年目の教科書』で
仕事の「共通言語」をつくる

コロナ禍で失われつつあるのが、会社や職場の「共通言語」である。

たとえば「○○売上」といった、その会社や部署独自の指標があったとする。
その部署にいる人が「目標達成」と言ったとき、「○○売上100%以上」を意味するが、新入社員や中途社員、別部署からの異動者は、リモートワークでその「○○売上」という言葉すら耳にする機会がない。当然、彼らからは「『○○売上』って何ですか?」という質問すら出てこない。そして期末の評価面談ではじめて、新人は部署の目標金額とは何かを知ることになる…。

こういった話は枚挙にいとまがない。

今、職場における「共通言語」が急速に失われつつあるのだ。
共通言語がないと、仕事において何を大切にし、何を優先し、何を目指すのかがわからない。
仕事の手順ややり方はマニュアルで共有できるが、どういう考えのもとで、なぜそれをやるのかを理解していなければ、新入社員はモヤモヤした気持ちのまま、「示されたこと」だけをやるしかないのだ。
上司からは、そういう新人は「受け身だ」と見えてしまう。
こうした双方のギャップが信頼関係の崩壊を招き、新入社員は早い段階で「この会社では先が見えない」と判断せざるを得なくなり、転職という手段をとることも。

そうならないためにも、コロナ禍だからこそ、仕事における原理原則や考え、社内の暗黙知を意識的に共有する必要がある。

岩瀬氏は「『入社1年目の教科書』を共通言語を確認するファーストステップとして活用してほしい」と話す。

「『入社1年目の教科書』では3つの原則を最初に掲げています。

1 頼まれたことは、必ずやりきる
2 50点で構わないから早く出せ
3 つまらない仕事はない

まずはこの3つの原則を本を読んで頭に入れたら、次に、
同期や先輩、上司などと一緒に『今の自分たちの仕事で、
この3つをどう考え、活用するといいか』を話し合う
ことをおすすめします。
このように、同じものさしを持って『このケースではどう使うか』を議論することが、
共通言語を理解する早道だと思います。それだけでなく、職場のコミュニケーションを深め、
上司と部下、先輩と後輩、同期仲間との信頼関係の構築につながるはずです」

先ほどの「全社員に配った」という会社の経営者は
「仕事はこういうものなのだという共通認識ができたので、全従業員が同じ行動をとるようになった」と言う。
「本の中にある『朝のあいさつはハキハキと』は、新入社員だけがやるべき仕事ではありません。当たり前ですが、全従業員がやるべきことです。もっといえばお客様に対してのあいさつも同じです。そういった話をテレワーク朝会でも話すようになり、みんなでこうしていこうという声が出るようになり、組織の一体感が増した。管理職にも良い影響が出ていると思う」とのこと。

かつては飲み会や営業先へ行くときの移動中など、ちょっとした雑談の場で、こういう話ができたのだが、コロナ禍で「何気ない話をする機会」は激減した。
『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』がそういう「何気ない話をする機会」になっているのだという。ハラスメントやプライバシーの問題などで、個人に立ち入るような話はしにくい時代だからこそ、このような本が「雑談のタネ」としての役割も果たしているのだ。

ぜひみなさんの職場でも活用していただきたい。

『入社1年目の教科書』の50ルール13に「朝のあいさつはハキハキと」がある。

コロナ禍で「仕事の教科書」が<br />入社1年目以外の世代にも読まれている理由

『入社1年目の教科書』の50ルール、気になる人はぜひチェックしてほしい。

岩瀬大輔(いわせ・だいすけ)
ライフネット生命保険株式会社 共同創業者

1976年埼玉県生まれ、幼少期を英国で過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストンコンサルティンググループ等を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了(ベイカー・スカラー)。2006年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げ、2013年より代表取締役社長、2018年6月より取締役会長に就任。同年7月より18ヵ国の国や地域に拠点を有するアジア最大手の生命保険会社であるAIAグループ(香港)に本社経営会議メンバーとして招聘される(いずれも2019年退任)。2020年、スパイラルキャピタルのマネージングパートナーに就任し、テクノロジーで業界変革や産業創出を行う企業の支援を行う。また、ベネッセホールディングスなどの社外取締役も務める。
世界経済フォーラム(ダボス会議)「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。著書は著書は『入社1年目の教科書』『入社1年目の教科書 ワークブック』(ダイヤモンド社)など多数。