ある日突然、異動や転職などでリーダーを任された。
配属先は慣れ親しんだ場所ではなく、
すでに人間関係や風土、文化ができ上がっている
“アウェー”のコミュニティ(会社組織)。
右も左も分からない中、
「外から来た“よそ者”」の立場で、
いきなりリーダーを任されるケースも
少なくありません。
また、多数のエンジニアを率いる非エンジニアの
リーダーなど、自分の専門外の領域でチームを
まとめなければならない
「門外漢のリーダー」も増えています。
今の時代、「よそ者リーダー」がリーダーの
大半であるといっても過言ではありません。
そこで、新規事業立上げ、企業再生、事業承継の
中継ぎetc.10社の経営に関わった
『「よそ者リーダー」の教科書』の著者・吉野哲氏が
「よそ者」こそ身につけたい
マネジメントや組織運営のコツについて伝授します。
今回は、よそ者リーダーの
「人事情報との向き合い方」についてお伝えします。
(構成/柳沢敬法、ダイヤモンド社・和田史子)

『「よそ者リーダー」の教科書』著者の吉野哲氏による人事情報との向き合い方とはPhoto: Adobe Stock

事前情報は
“話半分”で聞き流す

外部から新天地に赴く“よそ者リーダー”が、できるだけ早く手に入れたいのは着任先の「人」の情報ではないでしょうか。

しかしながら、「新天地に着任する前の段階では、人事や人材に関する細かな情報は持ちすぎないほうがいい、むしろ知らないほうがいい」というのが、私の考えです。

新社長として着任する際によく設けられる前任者とのミーティングでは、業務上の引き継ぎや会社の内部事情などの情報交換が行われますが、人材について話が及ぶことも多々あります。

だいたいは「あの役員はずっと営業畑だった」「○○部長は海外勤務が長かった」「あの人はまじめだよ」ぐらいの話なのですが、

「誰々はこういう人物で、こういうことを言い出す傾向がある」
「誰それはこんなタイプで、これまでにも何度か問題を起こしていた」
「誰々は○○大学出で、頭はキレるけれど、人望はイマイチ」
「誰それは、実務は堅実にこなすが、管理職の器じゃない──」

といった個人の人間性や具体的な資質についての突っ込んだ情報には要注意

着任前の時点では従業員個々の「社歴」や「学歴」などのバックボーンを深く知る必要はありません。そうした立ち入りすぎた情報は“話半分”で聞き流しておいたほうがいいでしょう。

なぜなら、誰かがもたらす「あの人は○○な人」的な情報は、冷静で公平で的確な評価というよりも、「私はそう思っている」という個人的な印象にすぎないからです。

また、同じ人なのに、立場の違う人からの印象や評価が正反対ということもあります。

「上司が見たAさん」「後輩が見たAさん」「取引先の人が見たAさん」――それぞれの印象がすべて違い、同じ人物とは思えないほど評価が分かれることも珍しくありません。

つまり、たった一人や二人の個人的な他者評価だけで、「誰々さん」の人物像を決めてしまうのは非常に危険だということです。

顔合わせもしないうちに「詳しすぎる事前情報」や「個人的な印象」を聞かされると、それは否応なしに先入観となって頭の片隅に残ってしまいます。

そして本人と会ったときに、その先入観が邪魔をして洞察力のバランスを欠き、評価にバイアスがかかってしまう可能性も。特に前(現)社長のように影響力が大きい人の話は、どうしても引きずってしまいがちなので要注意です。

人の資質や能力とは、他者からの情報に左右されることなく、直接会って話し、自分の目で仕事ぶりを見て評価するものです。そのためには、フラットな人材評価の障害となりえる事前の詳細な人事情報はできるだけシャットアウトする

これもまた、知らない人ばかりの新天地に赴く“よそ者リーダー”の大事な心得のひとつです。

※「よそ者リーダーとはどんな人か」「よそ者リーダーが身につけたい3つの心構えやマネジメントとは何か」については、本連載の第1回も併せてご覧いただければと思います。

次回は、よそ者リーダーの“必須業務”である「従業員面談」の基本と留意点をお伝えします)