日本側にはこうした事情と同時に、今や経済安全保障の鍵になっている半導体産業を立て直す「最後の機会」だという思いがある。

 80年代までは世界をリードして日本の半導体産業だが、キオクシア(旧東芝メモリ)など一部を除けば、かつての面影はない。

 とりわけ、CPUなどデータ処理や機器の制御をするロジック半導体では、TSMC(台湾積体電路製造)、サムスン、インテルの「3強」に大きく取り残されている。

 処理速度などを高めるため、製造技術の競争は1ナノメートル(10億分の1メートル)単位の超微細加工技術の段階に入っているが、日本企業の最先端製品は40ナノに対し、世界最先端のTSMCは5ナノまで量産技術を進める。年内にはさらに高レベルの2ナノの実験ラインを立ち上げるといわれている。

「このままではジリ貧になり、DX(デジタルトランスフォーメーション)を駆使した経済競争にさらに遅れかねない。日本としても同盟国の米国に半導体の生産拠点ができるならそれでいいというわけにはいかない」(経済産業省幹部)。

 6月4日にまとめた新たな「半導体・デジタル産業戦略」では、半導体などのデジタル産業基盤の開発・生産体制の強化は「国家事業」としての喫緊の課題とされ、とりわけロジック先端半導体の生産は海外の半導体大手を誘致する路線に切り替えた。

 これまで日本メーカーの再編による立て直しを図ってきたが、自前路線を諦め、日本が強い素材や製造装置などの関連企業の集積を売りに、海外企業を誘致。さらに、自動車などの半導体ユーザーと一体になった共同開発や国内の「5G」関連企業などの開発支援で、国内のデジタル産業全体を活性化させ、半導体王国の復活を目指す。

TSMCを日米が“取り合い”
影を落とす「台湾有事」

 とりわけ誘致に熱いまなざしを向けるのは、半導体のファウンドリー(受託製造)で世界の半分以上のシェアを持つTSMCだ。

 昨年からすでに水面下で、日米の間でTSMCの先端工場誘致をめぐる綱引きが展開された。

 TSMCは米国・アリゾナ州に5ナノの量産工場を建設する計画を表明。日本は米国との誘致合戦に破れたものの、今年2月には、研究開発拠点をつくば市に誘致することに成功した。