同じ商品がどこの百貨店でも買えるようになり、
個性がなくなった
カノン 本題に戻って、前回先生がパルコ事業が百貨店再生の鍵とおっしゃられた理由は何でしょうか?
林教授 言うまでもなく三越伊勢丹や高島屋がパルコと同じ商売を始めるというわけではない。おそらく、パルコの進化版を目指しているのではないかな。
カノン パルコって、いろんなテナントが入っているビルですよね。
林教授 そうだね。ところで君は自分の店を持ちたいと思ったことがあるかな?
カノン スイスやオーストリアの小さな街で見かける可愛らしい雑貨店なんか憧れます。
林教授 確かにヨーロッパにはセンスのいい店がたくさんあるね。君がそんな素敵な店を持ちたい気持ちはわかる。だが、いざ出店しようとした場合、やはり躊躇するよね。何百万、何千万円もの借金をして開業しても、客が期待どうりに来てくれるかはわからない。仮に客が来てくれても、君が売りたい商品を買ってくれるかは別問題だ。
カノン そこが悩ましいところでしょうね。
林教授 パルコの出番はここにある。ホームページにはこう書かれている。
「パルコのビジネスモデルの特徴と優位性として、安定的な収益構造、商業施設のトータルプロデュース力、豊富なノウハウを活かした店舗開発力、建築・内装デザインのディレクション力と折衝力、テナントリーシング力とインキュベーション力、商業の付加価値としてのソフトコンテンツプロデュース力などがあります」
カノン なるほどね。出店する際にプロデュースしてくれるのですか。確かにテナントのリスクは減りますね。しかも、パルコは場所とアイデアで商売するのだから在庫もいらないし、店員もいらない。そして、場所貸しより高い収益を得ることができる。
林教授 これまでの百貨店はどうだったか。ボクが若い頃は、百貨店に行けば、なんでも手に入った。これは魅力だったね。ところが、客が欲しいものは、裏を返せば百貨店が売りたいものでもある。その結果、同じ商品がどこの百貨店でも買えるようになった。
カノン 個性がなくなったんですね。ちょっと残念です。
林教授 昔はフランスのルイヴィトの店でバッグを買い求める女性が大勢押し寄せたものだ。香港に行けばティファニーのアクセサリーが安く買えた。
カノン そうだったんですか。今は、三越伊勢丹でも、高島屋でも、大丸でも同じ価格で買えます。
林教授 どこの百貨店でも同じ商品が同じ価格で販売されるのだから、百貨店の個性はなくなって利益率は下がる。専門店が至る所に店を出す。ところが、百貨店は店自体を維持するのに膨大な固定費がかかる。これじゃあ売上は減るから商売は続かない。とりわけ、百貨店の販売金額の割合が大きい衣料品は、その物流と売れ残りのリスクが大きい。つまり、買取では儲からない商品なんだ。そこで、いろんな方法を考え出した。
カノン それが「消化仕入れ」ですね。売れた分だけ仕入たことにして、商品在庫の責任を追わなければ、物流のコストも在庫リスクもなくなります。
林教授 それでも人件費はかかる。