世界の「今」と「未来」が数字でわかる。印象に騙されないための「データと視点」
人口問題、SDGs、資源戦争、貧困、教育――。膨大な統計データから「経済の真実」に迫る! データを解きほぐし、「なぜ?」を突き詰め、世界のあり方を理解する。
書き手は、「東大地理」を教える代ゼミのカリスマ講師、宮路秀作氏。日本地理学会の企画専門委員としても活動している。『経済は統計から学べ!』を出版し(6月30日刊行)、「人口・資源・貿易・工業・農林水産業・環境」という6つの視点から、世界の「今」と「未来」をつかむ「土台としての統計データ」をわかりやすく解説している。

日本は世界2位の水産物「輸入」国! なぜ輸入が多い?

日本は水産物「輸入」国。いったいなぜ?

 本日は世界の水産業についてお話しします。

 世界における漁業・養殖業生産量の実に3割以上が輸出されています。輸送技術の進展、人件費の安い発展途上国への水産物加工拠点の移転、貿易の自由化などを背景に水産物貿易は増加傾向にあります。同様に肉類の生産量に対する輸出量が14%(牛肉12.3%、豚肉13%、鶏肉12.6%)ですので、同じタンパク源でも水産物は肉類よりも輸出が盛んといえます。

 世界の水産物貿易をみると、日本やアメリカ合衆国、EUといった先進国・地域では輸入超過となっています。また中国やベトナム、インド、チリ、インドネシア、タイなどの新興国では水産物輸出が外貨獲得手段の1つとなっていることがわかります。

 2017年の世界の水産物輸出額は、中国、ノルウェー、ベトナム、インド、アメリカ合衆国、チリ、タイ、オランダ、カナダ、デンマークが上位国です。

 中国は早い段階から水産物輸出が盛んな国であり、2004年にノルウェーを抜いて世界最大となりました。1人1日当たりの魚介類消費量が106グラムと高いこともあり、国内需要の大きい国ですが、養殖業が盛んであり、輸出余力を大きくしています。

 ノルウェーは、1976年時点(水産庁の統計で確認できる最も古い記録)では世界最大の水産物輸出国でした。その後、アメリカ合衆国やチリなどに追い抜かれますが、一貫して高い水準を保っており、現在においても世界的な水産物輸出国として君臨しています。ノルウェーの人口はおよそ537万人(2019年)であり、国内消費量の小さい国です。

「沖合に潮目や浅堆(せんたい)が発達して良い漁場が存在すること」
「国土の西部にフィヨルドが広く発達しており、天然の地形を利用した漁港の建設が容易だったこと」

 こうした理由で早くから漁業が発達しています。

 ノルウェーの1人1日当たりの魚介類消費量は141グラムと世界的に見ても大きくなっていますが、人口小国で国内消費量が小さいため、非常に輸出余力が大きいと考えられます。

 一方、2017年の世界の水産物輸入額は、アメリカ合衆国、日本、中国、スペイン、フランス、イタリア、ドイツ、韓国、スウェーデン、オランダが上位国です。