転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。ビジョナル創業者、南壮一郎氏に大きな影響を与えた人物の一人が現USEN-NEXTホールディングス副社長の島田亨氏です。南氏が創業したビズリーチに投資したエンジェル投資家であり、東北楽天ゴールデンイーグルス時代、球団トップとして仕えた人物でもある。島田氏は南氏にメンバーを同じベクトルに向かせるための「ミッション」の大切さを教えたといいます。どんな思いがあったのでしょうか。(聞き手は蛯谷敏)

USEN-NEXT島田亨副社長「リーダーは腹から信じる言葉で組織を導け」<br /><br />USEN-NEXTホールディングス副社長の島田亨氏(写真はICCサミットFUKUOKA2018登壇時のもの)

――島田さんが楽天イーグルスの球団社長だった時代、南さんは島田さんから、メンバーを同じベクトルに向かせるための「ミッション」の大切さを学んだと聞きました。

島田亨氏(以下、島田):組織を動かすときって、やっぱりメンバー全員を同じ方向性に向かせる必要があるんです。本当なら、目的地までの地図を配らなくても、自然にメンバーが目的地にたどり着けるのが理想なんですけど、それを理解して動けるメンバーや組織はなかなかありません。

 その重要性を理解しないで、ただただトップが「何でオレの目指す方向が分からないんだ」と言っても、それは経営側の手抜きですよね。

 だから、ミッションを共有する仕組みが必要なんです。そのための方法は一つではありませんが、やっぱりビジョンなり、ミッションなりを言語化する作業は必要になります。

――「錦の御旗」となるような言葉を定める必要がある、と。

島田:個人的には、言葉は人と相談して決めていくものでもないと思っています。それは事業を預かった最高責任者が、自分の言葉で示すべきものですから。

 例えば、事業にとって大切な要素は3つあります。それは、これとこれとこれです、と。自分の思いや、心の声も含めて言葉にする必要がありますから、やっぱり誰かに与えてもらった言葉ではダメなんです。その人が心から信じている表現でないと。それが本物かどうかは、外から見れば一発で分かってしまいますから。

 リーダーは、自分の腹から思っている言葉で方向性を示すこと。そうでないと、言葉だけが浮きまくってしまいます。

――立ち上げ時の楽天イーグルスのミッションは「ベースボール・エンターテインメント・カンパニー」というものでした。これによって、これまでの「野球」から、もっと楽しむためのものであるという方向に、プロ野球ビジネス自体を変えようとしていました。

島田:シンプルな言葉を使うことは結構、重要だと思います。要するに、事業を誰のためにやっているのかが明快でなくてはダメなんです。

 誰が、何のために、いくらのお金を払って、何を買おうとしているのか。どんなサービスを受けようとしているのか。これに、パッと答えられるかということです。

 エンターテインメントというミッションを定めたなら、どのようにお客さんに楽しんでもらうのか。そう考えると、野球ばかりではなく、それ以外の部分でも、スタジアム全体でサービスを提供するという考え方に変わるはずです。

 そうやって経営の方向性を決めれば、組織の中でもコンフリクト(衝突)を減らすことができます。より正確に言えば、仮に衝突が起きても、解決する基準ができるのです。(談)

 今回、紹介したエピソードのほか、ビジョナルの創業ノンフィクション『突き抜けるまで問い続けろ』では、起業の悩みから急拡大する組織の中で生まれる多様な課題(部門間の軋轢や離職者の急増、組織拡大の壁)を、ビズリーチ創業者たちがどう乗り越えてきたのかが、リアルに描かれています。