部下が上記の質問にすべて答えられることはまずない。ここまでしっかり考えて提案する部下などほぼいないからだ。よって、ア~キの7つの質問をして整理するだけで、意思決定のレベルを格段に上げることができる。
アでは、だいたい最初に思いついた選択肢を言い張っているだけのことが多い。「他の選択肢もないか、一緒に考えてみない?」と声をかければ、別の選択肢が浮かぶはずだ。イとウは、うかつな聞き方をすると、前例踏襲または他のまねということになってしまうが、そうではなくて、過去の事例をしっかり把握すると、その時と現在などの状況の違いも明らかになり、そのまま踏襲してはいけないことも明確になる。イやウで明らかになったことを踏まえて、エの意思決定基準を明確にすれば、自動的に答えは決まる。
合わせて、今が決定すべき時期かどうかや他への影響などを考えていけば、メンバーの全社的視点も身に付いていくだろう。難しい問題の場合は、他のメンバーにも参加してもらって、集団で考えれば、全体の思考レベルの底上げにもなる。
そして、何より大事なのは、あなた自身はこれを考えなくてよいということである。上司としてやるべきは、「議論の進行」である。つまり質問を投げかけさえすれば、部下は懸命に考える。それをやっている間に当人の思考が深まり、やる気をもって仕事に取り組んでもらえるようになる。
このようなやり取りを継続すれば、管理職自身は質問しているだけなのに、尊敬される状況になるから不思議である。
部下から市民権を得ることは
真価を発揮するための入り口
読者の中には、そんな簡単にうまくいくはずがない、これはコンサルタントのたわごとではないかと思われる方もいるだろう。しかしながら、前述した3点さえ実行できれば、あなたが一刻の猶予もなく成果を出さなければならない再生請負人でもない限り、ほぼ確実に効果が出る。ここで言う効果とは「ちゃんとした管理職として部下から認めてもらえる」、部署内で上司としての市民権を得るということである。
重要な課題に取り組み、管理職として本格的に機能するのは、この後のことである。まずは市民権を得ること、そしてメンバーの特性を十分把握し、業務にも精通したうえで、真価を発揮しよう。あなた色を出すのは、もう少しあとでいい。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)