若者の間で共感広がる
「寝そべり主義」とは?

 確かにこれまでは、名門大学に入れば、国家機関や有名企業に就職できて成功した人生を手に入れられた人もいただろう。ところが、近年、良い大学を出ても、かならずしも良い就職ができるとは限らなくなった。

 社会の格差がさらに広がり、階級が固定化したからである。都会に生まれ、親の代から金銭や人脈に恵まれている人は最初から勝者である一方、そうでない人や農村の若者は階層を超えることは至難の業で、絶望的だといえる。毎年の新卒が約800万人もいる就職競争の中で、実力があっても就きたい職業や入りたい会社を見つけることは大変難しい。

 そうした中、最近、日本のニュースでも話題となったのが、「〓平」(寝そべり、〓は身へんに尚)主義、あるいは「寝そべり族」という言葉だ。中国の若者の間で大変共感され、大流行。今は社会現象になりつつある。この寝そべり主義は、まさに今の中国の若者が置かれている状況を反映しているといえる。

「寝そべり主義」とは、簡潔に説明すれば“六不主義”である。「家を買わない」「車を買わない」「結婚しない」「子どもを作らない」「消費しない」「頑張らない」という六つを“しない”こと。そして、「誰にも迷惑をかけない、最低限の生活をする」ことを指す。

 受験戦争に勝つため、全ての時間を勉強に費やし、歯を食いしばって苦しんだ。大学に無事に入り、都会で働きたい夢も実現した。しかし、996(朝9時から夜9時まで週6日間勤務)や007(午前0時から深夜0時まで週7日間勤務)といわれる過酷な労働や高圧的な職場でいくら頑張っても、都会で家を買うこともできない。1カ月の収入は、大半が家賃で消えてしまう。およそ10年間で、中国の不動産価格は10~20倍に高騰したからだ。物価も年々上がり、生活することすら容易ではなくなった。これまで夢を持ってひたすら努力してきたが、結局、日々過酷な環境が続いて救われることがない。将来は見えなくなった。だったら「もういいよ、最低限な生存状態を維持すればいいだろう」と投げやりのような気持ちになっても無理はない。

 もっとも、大学にも行けない人たちの環境は、もっと過酷だ。労働者として働くが、低賃金に加え、職業安定の保障もなく、使い捨てのように扱われる人も少なくない。