突然、告げられた進行がん。そこから、東大病院、がんセンターと渡り歩き、ほかにも多くの名医に話を聞きながら、自分に合った治療を探し求めていくがん治療ノンフィクション『ドキュメントがん治療選択』。本書の連動するこの連載では、独自の取材を重ねてがんを克服した著者の金田信一郎氏が、同じくがんを克服した各界のキーパーソンに取材。今回登場するのは、悪性リンパ腫から復活したアナウンサーの笠井信輔さん。笠井さんは自分の闘病の経験などから、「病室にWi-Fi整備を」と説いています。(聞き手は金田信一郎氏)

■笠井アナの「がん治療選択」01回目▶「笠井信輔アナ、悪性リンパ腫から復活「昭和の価値観捨てて休む勇気を」
■笠井アナの「がん治療選択」02回目▶「笠井信輔アナの“しくじり”告白!「がん罹患、なぜ備えておかなかったのか」」

■笠井アナの「がん治療選択」03回目▶「笠井信輔アナ流、怪しいがん治療の見分け方「ネットで調べすぎてはダメ!」」
■笠井アナの「がん治療選択」04回目▶「笠井信輔アナ「がん治療のセカンドオピニオン、医者に言うのが怖かった」」
■笠井アナの「がん治療選択」05回目▶「悪性リンパ腫を克服した笠井信輔アナが病院選びで重視したあるデータ」
■笠井アナの「がん治療選択」06回目▶「笠井信輔アナ、がん闘病を綴る“セルフワイドショー”に込めた覚悟」

笠井信輔アナ、がんになって気づいたコロナ禍入院の孤独「病室にWi-Fi整備を」会社を辞めて独立した直後に、悪性リンパ腫になったアナウンサーの笠井信輔氏。著書『生きる力 引き算の縁と足し算の縁』では当時の経験を赤裸々に語っている。

――がんの経験を通して、笠井さんの人生観はどう変わりましたか。

笠井信輔氏(以下、笠井) それまでは職業柄、何かが起こったらすぐに現場に行っていました。自分の体のことはあんまり考えずに突っ込んでいたんです。健康のことを考えず、ぶっ続けで放送することもやっていました。

 ただ、「今までのやり方を続けていると良くないぞ」という思いは出てきました。自分ががんだと言われた時に、「あなたの生き方と働き方は間違っていました」という審判が下ったんだな、と思ったんです。だってそれまでは毎日、寝るのは夜の11時や12時で、起きるのは深夜2時半や3時だったんですから。20年の間、平均睡眠時間が3~4時間で暮らしてきたんです。

 生放送に向けて、120%の準備をして本番に臨んでいた。けれど今はもう、70%とか80%の準備でも何とかなると思うようになりました。視聴者も、常に100%を求めているわけじゃないんです。誰にだってミスはあるわけですから。そう考えて、疲れた時には寝ちゃうようになりました。

笠井信輔アナ、がんになって気づいたコロナ禍入院の孤独「病室にWi-Fi整備を」笠井アナは自身のブログ「笠井TIMES 人生プラマイゼロがちょうどいい」でも闘病の様子を飾らず、率直に、語ってきた。写真は入院中にiPhoneを入手した笠井アナの様子。

――私も以前は週末も出社していたし、毎晩深夜2時ごろに自宅に帰り、明け方まで原稿の構想を練ったり、資料を読みながら酒を飲んだりという生活を30年間続けていました。毎日、ビール2リットルと焼酎のストレートを飲み続けたので、なるべくして食道がんになった感じです。先生に「もう十二分に飲んだでしょう」と言われて酒は飲まなくなりました。仕事も、その日の体調や気分によって、量を調整しています。

笠井 自分の体の負担を減らしていく。仕事に対する向き合い方が変わったのは、大きいですよね。そもそも、世の中でリモートワークやテレワークが進み、会社で顔を突き合わせないとダメだという価値観も薄まっていますし。

 しかも、これだけ疫病が広がっていて個々人の体力が重要視される世の中にあって、免疫力が下がる睡眠不足は避けたほうがいい。過去のような価値観を直した方がいいというのは、がんになって強く思うようになりました。これまでの自分の働き方は間違っていた。過去の考え方にしがみついていると健康を害する、というのが今の実感です。

 同時に、自分自身ががんを罹患して弱者になったことで、弱者の視点を強く認識するようにもなりました。それはジャーナリストとして大きなポイントでしたね。頭では分かっていても、やはり体験したからこそ今は弱者に本当に寄り添うことができるようになった。当事者になると、また意識が変わりますから。

 そこで、最近では病室にWi-Fiを設置する活動を進めています。コロナ禍になって、入院している間、患者さんは面会者と接触することができません。でも、Wi-Fiがあれば、オンライン面会ができる。そこで民間団体「#病室WiFi協議会」を立ち上げて活動をしています。

 2021年4月には国の予算が付いたのでよかったのですが、それを実現するには、9月30日までに工事を完了させる必要がある。スケジュールの条件が厳しく、一方では世界的な半導体不足でアクセスポイントをいきなり大量に作れない事情がある。結局、有名無実化した通達だったので、新たにまた工事期間の延長などを政治家のみなさんにお願いしているところです。

 この活動も、自分ががんにならなければ、良質のWi-Fiが必要だという問題にも気づかなかったはずです。特に問題なのは小児病棟です。子どもたちは今、院内教室も禁止されています。その中でもWiFiがあれば、YouTubeを見たり、対戦ゲームで友達と遊んだりできるそうです。普通の子どもたちは通信環境のある家で過ごしているのに、病院の子どもたちはそれができずに苦しんでいるわけです。

 私自身、がんになって気づいたのは、友達がたくさん見舞いに来てくれるのは最初の1ヵ月だけだということでした。入院していた残りの3ヵ月半は誰も来てくれなかった。コロナ禍で面会禁止になったからです。この状況が全国の病院で1年以上続いているんです。そういう意味でも、コロナの時代の患者というのは孤独になりやすい。だからこそ、自分の経験を生かして、なるべく役立てていきたいなと思っています。