これまでの常識は忘れよう グローバル時代で勝つ人材の流儀#1Photo:Aiko Suzuki,Mlenny/gettyimages

日本企業は業界や業種、規模の大小にかかわらず、グローバル市場で世界の企業を相手に戦わなくてはならないが、躍動する米中企業と比較してその存在感は薄い。特集『グローバル時代に勝つ人材の流儀』(全6回)の#1では、『世界標準の経営理論』を刊行し、今日本で最も注目されている経営学者、入山章栄・早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授と、そんな日本の企業の今と、グローバル時代に勝つ企業と人材の流儀を議論していく。(聞き手/校條 浩)

現場が強く、失敗しない人が出世、
社長任期の“謎ルール”、根底にある思想は?

校條 日本企業はこの30年間、停滞からなかなか抜け出せません。入山先生は米国でも研究をされ、日米の企業をよくご存じだと思いますが、経営学者の目には、停滞する日本企業はどう見えるのでしょうか。

入山 僕はよく「製造業モデル」と言っているのですが、これは1990年代のバブル崩壊から、ほとんどの企業でこの仕組みは変わらず温存されています。変わるインセンティブがないので、変えたくても変えられない。

 製造業モデルは、経営よりも現場の力が強いのが特徴です。製品は均質で同一の商品を作っているので、歩留まりをいかに上げるかが重要です。つまり失敗を極力避けることが大事です。僕の理解ではこれは70~80年代前半くらいまでの、日本の成長期に成功したモデルです。「安く良いものを大量に」が重要だった時代です。

入山章栄・早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授 入山章栄・早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授 Photo by Yoko Akiyoshi

 均質なものを作るので、そこに関わる人も均質な方がいい。こうして、イノベーションは起きにくくなります。イノベーションのような、ある意味独創的な工夫やアイデアは異質なものであって、そんなものはない方がいいわけです。

 そうなると、組織のトップである社長は、大胆に言うと経営力が必要なくなるのです。現場が失敗を起こさないように頑張れば、よかったので。そうなると、社長はある意味、“ご褒美”の仕事になってしまうのです。

 会社は現場の力で回る、社長は経営力が必要ない“ご褒美”の仕事に成り下がる、何事もなく任期を全うすることだけを考えるつまらない社長が現れる……。この繰り返しです。