転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。ビズリーチを創業者の南壮一郎さんと、本書にも登場するマネーフォワード社長の辻庸介さんは同じ1976年生まれ。ソフトバンク・グループ会長の孫正義さんやファーストリテイリング会長の柳井正さんと比べて、ナナロク世代の経営はどのような特徴があるのでしょうか。(聞き手は蛯谷敏)

孫正義、柳井正世代とナナロク世代の起業家たちを分ける決定的な違いマネーフォワードの辻庸介社長

――辻さん世代の起業家は、ソフトバンク・グループの孫正義会長やファーストリテイリングの柳井正会長とはどういった点で違うのでしょうか。

辻庸介さん(以下、辻) これは僕の仮説ですが、一つはインターネットの影響が大きいと思います。情報が一気に拡散する技術が浸透したおかげで、インターネット的な新しい組織の形が定着しつつあります。

 インターネット以前の組織はピラミッド型ですよね。この特徴は何かというと、情報を一部の人が握っていて、その情報や意思決定をビラミッド型の下のメンバーに、順番に伝えていく流れでした。

 でも、インターネットが普及して、階層に関係なく、低いコストで一瞬に情報を共有できるようになった。以前のピラミッド型の組織では、みんなに情報を同時に伝達には、コストも手間もかかっていました。しかしインターネットによって低コストで同時に情報伝達が可能になったので、組織の形も当然変わるべき部分が出てきているんだと思います。

 あとは、働く人のモチベーションが、「お金」や「出世」などに加えて、「社会貢献」などにシフトしてきたことも大きいですね。人を巻き込むのに、お金さえ払っていればいいわけではなくて、「今、僕たち私たちが生きているこの社会を、どのようによくしていきたいか」というメッセージと、それを実現するための具体的なアクションを取れるリーダーが必要になっていると感じます。

 世の中の変化や競争はますます激しくなっているので、一人でできることは限られています。社会を変えるにはビジョンに共感する優秀な仲間が必須です。だから、チーム経営を大切にする起業家が増えているんだと思います。

 ただ、チーム経営は決していいことばかりではありません。とにかくコミュニケーション・コストや意思決定のコストがかかりますから。

 経営チーム内の意思決定だけでなく、社員にも意思決定の背景の説明などをするためのコミュニケーションがとても大切になります。当然、今までの経験や知識などの前提条件が違いますし、経緯や意思決定の背景すべてを共有することは現実的には難しいので、メンバー一人ひとりに納得してもらうことが、意外と大変なんです。

 インターネット前の比較的トップダウンの組織なら、ある程度、指示を出せば組織が動いたのかなあ、とか、ちょっとうらやましく思ったりもします。

 ただ、僕らの世代はインターネットありきの経営スタイルで、グローバルでも通用する会社をつくりたいと思っています。それがつくれるかどうかは、僕らの能力、努力次第ではあるけれど、必ずやり切りたいと思っています。

 コミュニケーション・コストがかかると話しましたが、それでも、一人ひとりが納得して、考えて、パッションを持って動き出すと、すばらしいサービスを届けることができるようになる。メンバー一人ひとりのパッション、思いが何よりも大事ですし、そのために必要なコミュニケーションは、経営者として喜んでやりたいですね。

 ビジョンに共感して、「自分もそのビジョン実現に貢献したい」と思ってくれている人がマネーフォワードにも本当に多いんです。そういう思いとパッションをもった素晴らしい人が集まることで組織が強くなっていくんだと思います。

――株式上場したことで、何が変わりましたか?

辻 意識は圧倒的に変わりました。社会の公器として、ステークホルダーの方々への説明責任もありますし、株主からのプレッシャーもかかります。一方で東京証券取引所のような公的機関から認めてもらえたという意味では、すごく自信を持てるようにもなります。上場企業である以上、社会に役立ちたいという気持ちも一層、高まりますよね。

 あとは、何もないときから信じて投資してくれたベンチャーキャピタルや、信じてついてきてくれた社員にも、経済的にもそして社会的信用と意味でも還元できますよね。経営者の責任としては、それがやっぱりほっとしますよね。(談)