従業員持株会で2000万円!
どうすれば豊かになれるのか

 幸いなことに、みさき投資の周りには非常に明るい小噺がたくさんあります。「中神さん、そろそろ僕も定年でね、ずっと従業員持株会で買ってきた株の価値がどのぐらいになっているかなと思って見てみたら、なんと2000万円になっていたんです!」という話、ほかにも「単に持ち株の価値が上がっただけじゃなくて、給料も賞与も上がって家も買えました」とか、「株主総会に行くと、清掃作業の方が『持っていた株が2000万になりました』、用務員の方が『持ち株が3000万になった』と教えてくれた」という話など、豊かになった例も、意外なことにあちこちにあるのです。

 今回上梓した『経営者・従業員・株主がみなで豊かになる 三位一体の経営』の中で、私がどうしても伝えたかったことは、個別的な事例ではなく、誰もが再現できる方法で、みなで豊かになれないかということです。そして、その方法はこのスライドのとおりです(図表8)。

従業員の給料を下げてROAを維持する日本企業の不都合な真実図表8

 日本の経営は今まで、経営者と従業員が二人三脚で取り組んできました。ただ残念ながら、先ほど見ていただいたとおり、業績やパフォーマンスは必ずしも高くありません。

 もう1つ特徴があります。日本の会社では、意外と経営者も従業員も株を持っていないのです。せっかく運命共同体としてやっているのに、これでは仮に会社の価値が上がっても、その成果を享受できません

 この状態を続けていくと、豊かさからどんどん離れていってしまいます。さらには経営のパフォーマンスがずっと低いままだと、どうしてもアクティビストと呼ばれる方々に狙われてしまいます

 一方で、先ほど見ていただいたとおり、みなで豊かになった事例は確かに存在します。収入も増え、持っていた株式の価格も上がったという、理想的な状態があるのです。この右上の「みなで豊かになる」ところにたどり着くには、まずは「2σ(シグマ)の経営」まで行きませんかというのが私の提案です。

 2σというのは、偏差値で言うと70のことです。私どもは「厳選投資家」というものを標榜しております。厳選とはどういうことかというと、たとえば私どもの場合は10社ぐらいにしか投資しません。上場企業は4000社ありますが、厳選に厳選を重ねて偏差値70の10社にだけ投資をする。それが、私どもの厳選投資です。

 「2σの経営」とは何かが理解できれば、そこにたどり着けます。ですから、厳選投資家の思考を経営に取り込んではいかがでしょうか。具体的にいいますと、2σの経営とは、複利であり、超過利潤であり、事業経済性であり、障壁であり、障壁を築くためのリスクテイク、あるいはコストの投下、その背後にあるその人独自のイディオシンクラティック・ビジョン(事業仮説)から成り立っています。時間的に全部は難しいですが、今日はこのあたりに少しだけタッチできると思います。

 さて、仮に2σの経営を実現できたとします。これで、みなで豊かになれるかというと、そんなことはありません。恐ろしいことに、そうした会社には「勝者の呪い」というものがかかってきますので、うまく対処できないと転げ落ちてしまいます。具体的にいうと、集団での意思決定をうまくやっていく術を開発したり、平均回帰の流れにあらがったりする。そうやってようやく、みなで豊かになれるのです。