キャッシュフローから計算する
企業価値のおさらい
ここまでは言葉で説明しましたが、ここからは簡単な数式で説明していきます。
目先の1年間のフリー・キャッシュフローをFCFと置きます(FCFについては、のちほど説明します)。
このFCFが毎年g%で成長するものとします。このFCFを現在価値に割り引くための割引率をr%とします。
拙著『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資法』でも紹介しましたが、各年のFCFの現在価値の合計をPV(Present Value)とすると、以下のように表すことができます。
PV=FCF÷(r-g) ……(1)
こう書くのは簡単ですが、理論株価を算出する過程でいくつかハードルがあります。
まず、将来のフリー・キャッシュフロー(FCF)を算出するためには、売上高、費用、利益、税金、減価償却、設備投資、運転資金の増減といった項目を予想しなければなりません。外部からは完全に予想しきれない項目もあり、発行体(事業会社)にも確認をしながら作業を進める必要があります。この予想を数十年先まで行うのです。一言でいうと超面倒な作業です。
ちなみに、証券アナリストの仕事はこの面倒な作業を、分解できるところまで分解して、詰められるところまで詰めるというのが一つの仕事です。ただし、予想は予想であり、また予想の対象である企業を取り巻く環境も時々刻々と変化するため、入手可能な情報でしっかり予想をしたとしても、それはその時点での予想にすぎません。状況次第で予想は変化して当然です。
さて、そのように予想されたキャッシュフローを現在価値に割り戻す作業が必要となるのですが、そのためにいくらで割り戻すのか、割引率を決めなくてなりません。
割引率に関して、理屈はしっかりとしたものがあるのですが、それをそのまま使おうとすると難しいのが実際です。割引率もFCFの予想と同様に環境によって時々刻々と変化していくものであり、「割引率は〇%である」と常に固定した数値があるわけではありません。
このように、DCFモデルでは、かなり流動的な要素を含んでいるという前提で、理論株価を弾き出します。つまり、理論株価といっても絶対的に正しい株価があるわけではなく、極端な話、為替レートや金利が変わることを臨機応変に織り込もうとすれば、「秒ごと」に変わります。これは株式市場で取引される株価が時々刻々と変わるのと基本的には同じです。