売上債権、棚卸在庫、仕入債務を売上高や売上原価で割り、日数で定量化するキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)という考え方があります。CCCを踏まえれば、売上高が拡大している最中には、売上債権をいかに早く回収し、在庫を適切に管理し、仕入債務の支払いを極力遅らせるという努力をしなければ、必要となる運転資本は増加していきます。一方で、売上高が伸びず、CCCの改善がないのであれば、運転資本増減はないということになります。

 さて、アナリストは将来の売上高予想をどうするのでしょうか。前回のコラムでは、アナリストは将来の5年間について一生懸命に分析することと、その理由についてお話ししました。そして6年目から100年目までの利益予想は横ばいという前提を置きました。

 将来のどの時点まで成長予想を引っ張るかはアナリスト次第ですが、長期の売上高は先ほどと同様によほどの確信がなければ横ばいにします(さすがに、売上高がどこかの時期から減少に転じる予想というのは見たことがありません)。そうなると、運転資本増減はなくゼロということになります。

 その結果、(2)’’の式は以下のようになります。

FCFF=利払前税引後利益 ……(2)’’’

 続いて、この利益の扱いについて考えてみましょう。長期的に税引後利益が出ている企業はどのように行動するでしょうか。

 事業機会がある企業の場合には、利益を直接投資に回したり、金融機関から資金調達をして設備投資などを行うでしょう。ただ、長期的には魅力的な投資機会は少なくなっていくという前提に立てば、バランスシートを拡大していくという予想は立てにくいものです。

 魅力的な投資機会がなければ配当などを通じて株主還元をしていくべきですが、還元してもなお現金が貯まっていく場合には、どうなるでしょうか。借入返済というのが経営者にとっての一つの選択肢です。もっとも、日本の歴史のある企業の多くがこうした状況になり、なかなか資金を借りてもらえない銀行が困っているという話を耳にしていると思います。

 アナリストも経営者と話をしながら利益やキャッシュフロー予想をするものの、「40年先の利益の使い方について教えてください」と聞いても、これに回答してくれる経営者はいません。そうなると、積み上がる現金は借り入れを返済していくという予想を立てることもあり、現在、負債があっても、将来、ゼロになることになります。その前提に立つと、支払利息はゼロになります。

 その結果(2)’’’の式はどうなるかというと、以下のようになります。

FCFF=税引後当期利益 ……(2)’’’’

 将来の負債がない企業の税引後利益は、つまり当期純利益ということになり、以下のように書き換えられます。

FCFF=当期純利益 ……(2)’’’’’

 ここで思い出していただきたいのがFCFEです。

FCFE=当期純利益+償却費-運転資本増減-設備投資 ……(4)

(4)の式についても、長期で見ると、(設備投資-償却)、運転資本増減は(2)の式で見たようにゼロとなります。したがって、FCFEも長期で見ると以下のようになります。

FCFE=当期純利益 ……(4)’

 こうなると、(2)’’’’’の式と(4)’の式は同じとなり、さまざまな前提を置きましたが、長期的にはFCFFもFCFEも同じ当期純利益に収斂していくことになります。

 つまり、将来のFCFを議論すればするほど、当期純利益を議論していることになります。こうなると、FCFFでは企業価値を議論していたのに、長期的に見れば株主価値を議論していたことになります。