PERとDCFモデルが結局は同じ考え方になる理由Photo: Adobe Stock

 株価を判断する際に何かと役立つのが、インカムアプローチのバリュエーション。

 インカムアプローチは、「この銘柄の株価は〇〇円で評価されてしかるべきだ」というように、理論株価を計算したい人が拠り所にするバリュエーションの王道です。

 今回は、実践的にどう使うのかという流れで話を進めていきます。基本的な考え方については、前回の「目標株価算出の王道! DCFモデルの考え方」をご参照ください。

超長期で見ると
企業価値は株式価値に収斂する?

 キャッシュフローが会社全体に帰属しようが、株主に帰属しようが、割引率として同じものを使うことができるとすると、決算ごとに変化する業績予想や、時々刻々と変わる株価と付き合わなければいけない資産運用の現場は楽になります。

 しかし、それでは、資本構成、βなどから厳密に割引率を計算しようとするファイナンスの考えはどこにいったのかという指摘もあるでしょう。

 その点に関しては「割引率は企業ごとに大して変わらない」という仮説のもとに次のように考えるのはどうでしょうか。その仮説に至る背景を説明していきます。

 まず、FCFFの式を思い出してください(式の番号は前回のものを踏襲しています)。

FCFF=利払前税引後利益+償却費-運転資本増減-設備投資 ……(2)

 この(2)の式を次のようにまとめます。

FCFF=利払前税引後利益-(設備投資-償却費)-運転資本増減 ……(2)’

(2)’の式をもとに長期的なFCFFの予想がどうなるか考えてみましょう。

 歴史のある企業などでよく見かけますが、「償却の範囲で設備投資を行っている」という企業は少なくありません。そうすると設備投資と償却の額が同じなり、(設備投資-償却費)がゼロになります。

 上場企業は、本来、収益機会を見いだして設備投資をしていくことでフリー・キャッシュフローを拡大していくことが求められています。

 ただ、収益機会を見いだせず、現状維持となった場合には(設備投資-償却費)がゼロになります。証券アナリストとしても、相当先の将来の予想において特段の確信がない限りは、こうした前提を置くことがあります。

 その結果、(2)’の式は以下のようにとらえることができます。

FCFF=利払前税引後利益-運転資本増減 ……(2)’’

 続いて、運転資本増減はどうでしょうか。運転資本増減は以下のように求めます。

運転資本増減=(今年度の売上債権+棚卸在庫-仕入債務)-(前年度の売上債権+棚卸在庫-仕入債務) ……(6)

 では、売上債権、棚卸在庫、仕入債務はどのような状況で変化するのでしょうか。これはイメージできると思いますが、事業が拡大し、売上高が伸びている間は運転資本がどんどん拡大していきます。