少しでもやれる可能性があるなら、挑戦しよう

イノベーションが起きるときに必要な、ある意外なものとは?京都伝統工芸の若手経営者6人によるプロジェクト「GO ON」が主催する「CRFTS NIGHT」の会場風景

山口 エルメスぐらいに名前がグローバルに知られると、例えばエルメスの内装でロールスロイスが、車をやってみたいなコラボはありますけれども。日本発っていうのはすごく珍しいし、いろんな方にこれ、勇気を与えてくれる事例だったかな思います。とはいえ、150センチ幅でっていうふうに言われたときに、これは相当リスクがありましたよね。

細尾 そうですね。やっぱり海外、最初メゾン・エ・オブジェに父が出したときから3年以上たって、ずっと事業としては赤字を出し続けていく中で、さらに僕が家業に戻ってきて、海外に出展すればするほど赤字が増えてみたいな状況でしたので…。そんな中で、できるかどうかわからない織機開発に、さらにまたそこ追い打ちかけるのかと。国内の着物業界が大変な時期の中でということで、海外の事業自体をやめたほうがいいんじゃないかというのが社内の大方のムードとしてありました。

山口 そうですか。

細尾 それもあって、とりあえず早く結果を出さなきゃというところで、見本市にどんどん出しては砕け続けてたみたいなときだったんですけれども。ただ、そこでずっと負け戦を繰り返していく中で、もうこの波に乗らなきゃダメなんだという勝負勘が働いたというか、もう海外をやるんだったら、これをやるか、あとはもうやめるかのどっちかだなというところはありました。そこで一応物理的には可能性はあるなという思いはあったので、やってみようということで。

山口 そこは職人さんとかと相談して、やってやれないことはないんじゃないかみたいな感覚はあったんですか。

細尾 そうですね。うちの工房長の金谷が「絶対に無理だ」っていうのであれば、ちょっと考え直す部分もあったんですけども、でも「やれる可能性はあります」と。ちょっとあいまいな答えではあるんですが。「可能性があるんだったら、やりましょう」ということで。

山口 3年間、海外展開という打席には立ち続けていたけれども、あまりいい結果は出てなかったということで、おそらく同じことを続けてても、この流れは変えられないだろうと。で、うまくいくかどうかはわからないけれども、もしかしたらこの流れを変えるチャンスになるかもしれないと。本の中では「勝負勘が働いた」って書いてありますけれども、ここもなんかすごいポイントだなと思っていて。いつも90点を取るのがビジネスだとすると、細尾の海外ビジネスに関して言うと、50点なのか60点なのかわからないですけど、それを120点を取りにいくっていうのかな。ここぞという打席が来たときの見極めが、やっぱりすごいポイントなんだなと思うんですよね。しかも結構待たせてますよね、マリノさんを。

細尾 そうですね。実はこれ、書籍では書いていないんですけれども、150センチ幅の織機ができるまでは待っていただいたのですが、実は70センチ幅の丸帯の織機というのがあったんですね。それでちょっとつないでいた時期はあったんです。

山口 あ、なるほど。

細尾 150センチ幅ができるから待ってくれと。で、それまではということで、丸帯の70センチ幅の織機で何店舗かはやれたんです。そのときにやっぱり、使いづらい70センチ幅でも使ってくれるぐらいだから、150センチ幅ができたらこれは相当広がるだろう、跳ねるだろうという予感はありました。

山口 向こうとしても70センチ幅でということは、つなぎ目は出ちゃうんだけれども、それでもやっぱりこの素材をぜひ使いたいということですね。

細尾 そうですね。

つづく