転職サイト「ビズリーチ」などを運営する巨大スタートアップ、ビジョナル。『突き抜けるまで問い続けろ』では創業後の挫折と奮闘、急成長を描いています。本書では、ビズリーチ創業者である南壮一郎氏の人間的な魅力について、澤円氏が語っている部分があります。「おみくじは大吉しかでない」と語る南氏の言葉の真意について、改めて話を聞きました。(今回はインタビューの前編、聞き手は蛯谷敏)
――『突き抜けるまで問い続けろ』ではビジョナル創業者、南壮一郎さんのパーソナリティを示すのに、澤さんが教えてくれたエピソードが印象的でした。南さんは、「僕はおみくじは大吉しか出ない」と言うとか。
澤円さん(以下、澤) 「なぜなら、大吉が出るまで引き続けるから」という落ちなんですけど、彼の性格をある意味で、とてもよく物語っていますよね。本人からは書籍化された後で、「ばらされた」と笑って言われました(笑)。
でも、確かに考えてみたら、「おみくじは1回しか引いてはいけない」というルールはないんです。1回目に引いた結果が絶対だという決まりもない。僕らが勝手に、いわば無意識にうちに「おみくじは1回まで」と思い込んでいる。それに囚われている、という考え方もできるわけです。
おみくじはあくまでも一例だけど、案外、僕らは暗黙のルールの中で自分の行動を勝手に制限しているケースが多いんです。思考の罠にはまっている。
――だからこそ、澤さんは日ごろからよく「常識を疑う」という行動が大事だとおっしゃっているわけですね。
澤 もし何か新しいことを始めたいと考えていたり、今の環境では達成が難しい目的があったりするなら、見方を変える必要があります。「本当におみくじは1回しか引いてはダメなんだっけ?」と南さんが自分に問いかけたように。
まあ、彼はもともとそういう柔軟な発想ができる人間なんでしょうが、一般にはなかなか常識を疑うことができないんですよね。どうしても、人は慣れ親しんだ環境の考え方に適応してしまいます。
ですから、今の状況を変えたいと思っていたり、従来にない考え方を取り入れたいと思っている人には、常識とは異なる考えを受け入れてくれるパートナーやコミュニティの存在が必要になると思います。
――同質性の高い場所から一度、距離を置いてみるということですね。
澤 そうですね。もしかしたら、その典型は、自分が働いている職場かもしれません。長い間、暗黙のルールに従って動いている組織というのは、どうしても変化や柔軟な考え方をシャットアウトしてしまう傾向が強いと感じています。
ただ、だからといって、いきなり職場を変えるのは勇気がいると思います。であれば、まずは自分の居場所を複数つくってみてはどうでしょうか。職場の価値観とは違う、「外の物差し」で測定できる自分の居場所をいくつか持つことが大事です。
スポーツが、競技によってルールが違うように、私たちが生きている社会も、所属している組織によって評価は全然違います。仮に居場所が一つしかないと、評価が高い場合はいいんですが、評価が低いととても生きづらくなってしまいます。
でも、評価される場所が複数あると考え方は変わってきます。仮に会社で評価されていなくても、それは単に物差しの図り方の違いでしかないと分かります。だから、所属する組織を複数持つことはとても重要なんです。それだけで自分に余裕が生まれて、考え方もずっと柔軟になりますから。(後編に続く)