伝統の強みは、壊そうと思っても壊れない

アイデアを出し続ける人が、共通してやっていること細尾真孝氏と太刀川英輔氏

細尾 太刀川君の活動を見ていると、モノの美だけじゃなくて、その先に人がいて、その先に社会があってみたいな。デザイナーでありながら社会活動家のような立ち位置を感じるんだけど、その辺は意識しているのですか?

太刀川 僕の中では、ここも変異と適応というか、強いアイデアと本質的な意味の2つがバランスをとることで力になると考えています。歴史上のデザイナーって、みんな両方あるんですよね。バックミンスター・フラーも、チャールズ・イームズも、ミース・ファン・デル・ローエも、エーリッヒ・ヘッケルも、ダ・ヴィンチもそうかもしれない。

細尾 うん、確かに。

太刀川 かつては、アーティストやデザイナーというくくりは無かったんですよね。サイエンスとか、アートとかデザインとか、そういったものが融合して総合的な創造がおこなわれてきたんです。それが分化されたことによって、すごく弱くなってしまったと思っています。

細尾 そうですね。生産性や細分化を追求する中で、職人のものづくりも工程に細分化されて、いわゆる作業員になってきているというか。これまで職人が持っていた尊厳みたいなところはどうなるんだろうと。作業はロボットに取って替わられてしまいます、みたいなことになってきていますよね。

 産業革命以降、生産性を高めることによって、多くの人が安くて良いものを手に入れられるようになったけど、一方で、地球や自然とは調和が取れなくなっているのが明るみになってきています。これは、環境活動家だけではなく全員が当事者で、そういう意味では、すべての人が消費者からクリエーターになるべきだと思っています。

太刀川 そうですね。だから、モノのデザインがゴールじゃないですよね。本来、発揮できるであろうソーシャルインパクトを取り戻さないといけない、というところに僕はフォーカスを当てています。それと同時に、やっぱりかっこいいものをつくりたいっていうね。

細尾 そうですね。

太刀川 でも、かっこいいものをつくっているかどうかって、個人の探求ですよね。だからそこは僕は、それぞれ自分でやればいいと思っています。それよりも、本当は社会にはまだつながらなきゃいけないところって、あるよねと。旧来のところへすり寄っていくというよりも、つながっていないところとつないでバネのような構造をつくり、そこで揺らすほうが社会は動きやすい。ただ、そういう観点で動いていると、たぶん誤解されるんですよ。僕は建築出身なのに、プロダクトも、グラフィックもやる変な人だみたいな目で見られてたと思うし。もう越えましたけど(笑)。

細尾 細分化というと、この何十年かの流れの固定観念にとらわれている人はそうなりますよね。たとえば、HOSOOのケースでいうと「西陣織って帯でしょ」という固定観念があります。だから、これを素材として考え、幅広の布をつくり、インテリア材として展開していくと、「それは西陣織じゃない」という議論は当然出てくる。でも、その振り幅があるからこそ、可能性も見えてくるし、振り幅があればあるほど体幹に響いて、変えちゃダメなものと、入れ替えていくべきものが徐々に見えてくるんです。これを何回、やり続けられるかが大事です。西陣織のように長く続くものって妙な引力があるので、バンジージャンプみたいに「えいや!」で飛び降りても、絶対にまた元に戻っていくんですよ。

太刀川 いや、本当にそうですよね。

細尾 伝統の強みって、壊そうと思ってもなかなか壊れない強さがある。つまりはそれを信じているからこそ、壊すつもりでどんどん揺らしていくことができる。ここを何回やれるか、高速回転できるかというね。エジソンが電球を発明するまでに1万回失敗したと言われているように、1万回ぐらいやらないと、本当の意味でイノベーションって起きないんだろうなと思います。