フィクションに、未来のビジネスのヒントがある!

 Cli-Fiに隣接するジャンルもにぎやかだ。例えば、国土の海抜(標高)が低いオランダでは、海面上昇で土地が塩漬けになる未来を描く「塩パンク」というSFのサブジャンルが誕生している。また、ジャンルとしては少々古いが、石油産業をテーマにした「ペトロフィクション」と呼ばれる作品群も、Cli-Fiの問題提起を逆方向から映し出すものとして読むと興味深い。太陽エネルギーなどを活用する未来を描く「ソーラーパンク」もある。どちらかというとディストピア的な未来を描くCli-Fiが多い中、ソーラーパンクは技術進化に対する希望を垣間見せてくれるという意味でも重要だ。

 このように、今や「気候変動」というテーマは、SFの一ジャンルにとどまらない大潮流となっている。フィクションである以上、妄想や誇張も含まれるし、突っ込みどころだらけの作品も少なくない。しかし、Cli-Fiによって環境問題について真剣に考える人が増えれば、人の行動やビジネスも変わり、環境技術の発展も加速し、温暖化という大きな危機を脱出できる可能性も広がっていく。Cli-Fiは、まさに世界を巻き込んだSFプロトタイピングの実践なのだ。

 ビジネスの文脈でこのジャンルの動向に注目することは、今、極めて重要だと筆者は考えている。筆者自身、企業と組んでSFプロトタイピングを行う際、Cli-Fiがいかに世界で盛り上がっているかをよく力説するのだが、特にESG施策、ESG投資などに携わっている方々から「良いヒントをもらった」と喜ばれる。

『SF思考』にも書いたように、1980〜90年代のサイバーパンクSFの隆盛はシリコンバレーのIT起業ブームの燃料となり、その後の巨大テック企業の台頭を後押しした。現在の常識では荒唐無稽なCli-Fiも、環境ビジネスにまつわる未来の起業家たちを、今激しくインスパイアしている可能性は高い。フィクションはビジネスの未来を考える材料の宝庫なのだ。

 というわけで、改めていう。ビジネスパーソンよ、Cli-Fiを読もう!