あえて「おバカな部分」を入れ込む

 情報があふれる今の時代、唯一無二のアイデアなんてありません。「マネできない」という状況は、そうそう生み出せないのです。

 そこで私たちができることは、他の人が「マネしたくない」アイデアを生み出すこと。アイデアに、あえて「おバカな部分」を盛り込んで、ライバルに「マネしたくない」と思われることなのです。

サラタメ:「マネできない」ではなく、「マネしたくない」アイデア、これがまさしく「バカなる思考」です!

 ここで勘違いしてはいけないのが、ただの非合理な戦略ではない、ということ。

 部分的にも、全体的にもおバカなアイデアは、下図の「ただの愚か者」であり、なんの役にも立ちません。

【勝利のカギは「バカなる思考」】なぜかいつも変人が勝ってしまう合理的な理由「バカなる思考」という賢者の盲点 出所:楠木建著『ストーリーとしての競争戦略̶優れた戦略の条件』(東洋経済新報社)をもとに一部改変

 たとえば商品開発でいうなら、商品単体ではまるでおバカなアイテムに見えるものの、開発する会社の歴史・理念・コンセプトなど全体を踏まえると、「賢い!」となるものを目指すのです。

サラタメ:とてもわかりやすい&美しい「バカなる思考」の事例として、スターバックスコーヒーが日本に進出したときの快進撃をご紹介します。

「バカなる思考」の事例
スターバックスコーヒーの日本進出

 スターバックスコーヒージャパンは、今では日本で独占的な地位を築いているので、非合理なイメージはまったくないと思いますが、日本市場に参入したときには、かなり非合理なことをしていて、各種メディアで「絶対失敗する」といわれていたそうです。

 その非合理とは「フランチャイズ※」ではなく、「直営店※」で出店したこと。

「フランチャイズ」で出店すれば、仮に失敗しても、第三者のオーナーがリスクを負ってくれることになるので安心。

「直営店」方式だとリスクが高く、チェーン店展開において超重要な「出店スピード」が落ちてしまう。そんななかで、スターバックスは直営店方式という非合理すぎる戦略を取ったのです。

フランチャイズとは?
看板だけ貸して、売上の一部をもらう。セブン‐イレブンやファミリーマートなどコンビニエンスストアがやっている出店方法。元々土地や店舗を持っているオーナーに任せられるので、出店スピードが速い。

直営店とは?
土地もオーナーもすべて、スターバックス側で用意するタイプの出店。社員が直接運営するため、管理しやすいものの、出店スピードはかなり遅くなる。

マモル:なんでそんな非合理な選択をしたんですか?

 それは、会社全体として見ると、合理的な選択だったからです。

 スターバックスは「安くおいしいコーヒーを売る」会社ではなく、家でも職場でもない、お客さんが心から安らげる空間「サードプレイスを提供する」会社だったからです。

 もし、スターバックスがスピード&売上重視のフランチャイズ展開をしてしまったら、お店のオーナーがこんなことをしていたかもしれません。

・狭いお店でも、ギュギュッとイスを配置する
・長居するお客さんには、出ていってもらう
・人件費をケチって、スタッフのサービスは最低限にする

 これらは、一般的なビジネスでいえば、たしかに合理的な戦略。ただ、スターバックスのコンセプト「サードプレイスを提供する」ことを踏まえると、絶対避けなければいけないことだったのです。

 だからスターバックスは、直営店方式で、直属の社員にオーナーをやらせ、立地・席配置・サービス、すべてを自分たちのコンセプトに合わせて展開することにこだわったのです。

【勝利のカギは「バカなる思考」】なぜかいつも変人が勝ってしまう合理的な理由