今年4月に発刊された全512ページの大作『進化思考――生き残るコンセプトをつくる「変異と適応」』が、クリエイターのみならず、ビジネスマンの間でも話題を呼んでいる。先日、日本を代表する学術賞の一つ、山本七平賞を受賞した。著者の太刀川英輔氏は慶應義塾大学で建築デザインを学んでいた学生の頃から「創造性は本当に、一部の天才しか持ち得ないものなのか?」という疑問を抱いて探求を積み重ね、「生物の進化と創造性には共通の構造がある」ことを見いだした。発想にはある特定のパターンが現れてしまうと説く太刀川氏。どうすれば人は創造的になれるのか。はたして優れたアイデアに隠されたルールとは。アイデアの出し方について、進化思考から読み解いてみよう。
優れた創造的発想に共通する「構造」
こんにちは。デザインストラテジストの太刀川英輔です。生物の進化からイノベーションの本質を学んで、誰もが創造的になれる発想手法、進化思考を提唱しています。今日の記事は、優れたアイデアに暗黙的に隠されたルールの話です。
創造性には、垣根はあるのでしょうか。よく講演会で「デザインとアートの違いは何か」という質問をされますが、僕はその違いに意味を感じていません。そもそも、そこにかつて境界はなかったからです。こうした創造領域が分化したのは近代以降、この100年の出来事です。
ちょうど最近、西陣織の老舗・細尾の12代目で、西陣織の技術を活用した斬新なテキスタイルで海外からも高い評価を得ている細尾真孝くんとの対談(記事はこちら)でも議論しましたが、500年前のダヴィンチを例に出すまでもなく、イームズ夫妻でもバックミンスター・フラーでも岡本太郎でもアンディ・ウォーホルでも、偉大な創造者にとって領域間の境界には大きな意味はありませんでした。
社会を変えたさまざまな発明。何億円もの値段で取引されるアート。歴史に残る数多くのデザイン。私たちの常識を根底から覆した科学的発見。心に残る文学。こうした創造的な挑戦が連綿と繰り返されて、社会は構成されています。しかしながら現在の日本人のうち、たった8%の人しか自分のことを創造的だと思えていない、という研究結果があります。世界平均は44%。日本人がいかに創造性に自信を失っているかがわかります。
そこには、創造性はセンスや才能の問題という諦めを感じます。本当にそうでしょうか。そこに疑いを持ったのは、デザインをつくる中で、徐々に優れた創造的発想にある、なんらかの共通構造に気づいたからでした。
もし創造性に確固たる構造があって、それを体系的に身に付けられるとしたらどうだろう。そうなれば創造は、誰もが挑戦できる科目になる。
(進化思考 p5より)
もし創造性がきちんと教えられるなら、92%の人に諦めを感じさせている現在の非創造的な教育への光明となるはずです。