中国や欧州の景気減退に石油化学事業も引きずられ苦戦した2012年、化学業界はもう一つ深刻な問題に直面した。今年、国内の化学工場で大規模な事故が相次いだのである。

 さかのぼること2011年11月。東ソーの南陽事業所(山口県周南市)で塩化ビニルモノマーを作るプラントが爆発して火災を起こし、従業員1人が亡くなった。12年4月には三井化学の岩国大竹工場(山口県和木町)でも爆発火災事故が起きて従業員1人が死亡、周辺住民にも被害が及んだ。

 さらに9月、日本触媒の姫路製造所(兵庫県姫路市)で爆発火災事故が発生した。先の2件の事故を受け、業界が一致団結して安全対策に取り組もうとしていた矢先のことだった。消防隊員1人が死亡し、30人以上が負傷する大事故となった。

 一連の事故が起きた背景として強く問題視されたのが「現場力の低下」だ。事故原因は一般的に設備の不具合などのハード面、人的な作業ミスといったソフト面の2つに大別される。日本触媒は事故原因をまだ調査中だが、事故から1年経ち調査報告書をまとめた東ソーや、三井化学の事故で特に指摘されたのが後者だった。

「設備の高度化と技術継承不足で、トラブル時に臨機応変な対応が取れなくなっている」と大手化学幹部 。事故の発端はそれほど甚大ではない設備のトラブルだったにもかかわらず、その後の人的な不手際が事態を悪化させたという。

 国内で化学プラントが次々と建設された高度経済成長時の現場担当者たちは、設備の新・増設を重ねながら自ずとトラブルを経験していた。しかし今はプラントの電子化が進み、難しい温度や圧力の調整はコンピュータ操作が当たり前になった。定期修繕の間隔も伸び、設備を止めてじっくりと学ぶ機会は激減している。

 団塊世代の退職によって現場のベテラン運転員が減っていくなか、ある化学会社幹部は「中堅や若手はマニュアルばかりで化学の基礎的な知識が足りないし、原理原則を知らない」と世代交代に不安をのぞかせる。実際に、東ソーの事故では、可燃性物質と塩酸が混じって熱を帯びた状態を長時間放置してしまったことが原因の1つに挙げられている。