働き方改革やハラスメント防止、多様性の推進など、リーダーが解決すべきタスクは山積みだ。そのような難問をクリアしつつも、チームの士気を高めて成果を出すために、リーダーに求められることとは何だろうか?
リーダーとして迷いが生じたときに役立つのが、グローバル企業・ブリヂストンで社長を務めた荒川詔四氏の著書『優れたリーダーはみな小心者である。』(ダイヤモンド社)だ。
本書では、世界を舞台に活躍した荒川氏が、コンプレックスと捉えられがちな「繊細さ」や「小心さ」を、むしろリーダーが大事にすべき「武器」として肯定している。多くの人を勇気づける内容に、SNSでは「最も心に刺さったビジネス書」「悩んでいることの答えがここにあった」と共感の声が多数寄せられている。
本稿では本書より一部を抜粋・編集し、良いリーダーかダメなリーダーかがすぐに判明する「ある場面」を説明する。(構成/根本隼)
優れたリーダーかどうかは会議を見ればわかる
「優れたリーダー」か「ダメなリーダー」か……。その人物が主催する会議を見れば一目瞭然。会議室に入った瞬間にわかる、と私は考えています。
優れたリーダーの会議にはポジティブな空気がみなぎっています。参加者全員が、「思ったことを発言してもいい」「もしも、的外れなことを言ってしまっても危害を加えられることはない」という安心感があるから、前向きで自由闊達な雰囲気が生まれるのでしょう。
そして、さまざまな意見が飛び交うなかで、想定外の優れたアイデアが生まれる。リーダーが下した結論に対する納得度も高い。だからこそ、その結論を実行するチームワークが機能するわけです。
ダメなリーダーの会議は活気がない
一方、ダメなリーダーの会議は重苦しい空気で支配されています。
よく見かけるのは、リーダーの独演会になっているか、リーダーが信頼する数人のメンバーだけが発言しているケース。それ以外のメンバーが何かを口にしても、言下に否定されたり、途中で遮られたりする。
その結果、萎縮したメンバーが押し黙っていると、今度は、「発言しない人間はいらない」などと追い詰められる。これでは、会議は死んでしまうに決まっています。
そして、数人の偏った意見に基づいた結論が下され、他のメンバーはイヤイヤながらもその結論に従わざるを得ない。このような会議をいくらやっても、生き生きとしたチームワークなど生まれるわけがないのです。
自信過剰が会議の雰囲気を重苦しくする
なぜ、このようなことが起きるのか?
リーダーが思い上がっているからです。「自分は答えを知っている」「メンバーのなかで、自分がもっとも優秀だ」……。無意識的であっても、このような思いをもっているがために、部下の話を聞くことができない。むしろ、「答えを教えてやらなければならない」などと“上から目線”になってしまう。その結果、会議を制圧しようとしてしまうのです。
その意味で、注意が必要なのは、プレイヤーとして優れた実績を出してきたリーダーです。実績というものは、メンバーにとっては権威そのもの。実績をもつリーダーであるというだけで、他のメンバーを“黙らせる”には十分。そのうえ、「実績をもつ自分は答えがわかっている」などと思っていると、アッという間に会議を殺してしまうでしょう。
ビジネスに絶対の正解などない
しかし、ビジネスにおいて「答え」をもっている人間などいるでしょうか?
ビジネスは、あらかじめ「正解」が用意されているテストとはまったく異なります。ビジネス環境は刻一刻と変化を続けており、過去の実績に基づく方法論が通用するとは限りません。「昨日の正解が今日の不正解」というのがビジネスの現実なのです。
そもそも、ビジネスとは、リソースを投入してリターンを得る活動です。つまり、リターンを得られるかどうかは、未来になってみなければわからないということ。そして、どこにも未来がわかる人間などいません。であれば、ビジネスにおいて「答え」がわかっている人間というのは、原理的にありえないはずなのです。
自分の考えが正しいかどうか常に疑うべき
優れたリーダーになるためには、この点を強く認識しておく必要があると、私は思っています。いや、臆病でなければならない。「自分が正しいと思っていることが、本当に正しいのだろうか?」「自分が答えだと思っていることは、間違っているのではないか?」と懐疑的でなければならないと思うのです。
だからこそ、部下の意見にも真摯に向き合おうとし始めるからです。「自分には答えがわからない」と考えているリーダーは、まさか会議で部下が自由に意見するのを妨げようとは考えないでしょう。自分が話すよりも、さまざまな部下の意見に耳を傾けることによって、その時点における最適解を発見することに集中するはずなのです。
目的意識をもって仕事に取り組んでもらうことが重要
もちろん、部下に好き放題に発言させればいいわけではありません。しかし、チームに秩序を与えるのは、リーダーの統制ではありません。重要なのは、日ごろからリーダーが、メンバーに正しい目的意識をもってもらうように働きかけること。そして、それぞれの持ち場で、その目的のために全力で取り組むように励まし続けることです。
正しい目的意識をもって、仕事に真正面から取り組んでいる部下であれば、必ず、チームに貢献するために発言しようとするはずです。リーダーが会議を過剰にコントロールするのをやめても、メンバーが好き放題に発言して、会議が迷走するような事態を招く心配は不要なのです。
(本稿は、『優れたリーダーはみな小心者である。』から一部を抜粋・編集したものです)