外因的な動機づけか、
内発的な行動か

石井 もちろん、仕事とゲームの全てを同一にとらえることはできません。けれども、たとえばゲームの中で、複雑な戦闘システムやゲームの仕組みを学習して、ゲームをスタートしたときには考えられないような強敵を数ヵ月で倒せるまでに至ったり、もちろん現実世界よりは限られた自由度の中でですが、さまざまな挑戦や冒険をすることができるのが「お金を払ってでも行動し続けたくなる、ゲームの設計」ですよね。その中には、確実に学習や継続、スキルアップといった、仕事でも大切な要素が出てきます。

 仕事だって同様に、リーダーがメンバーを「調子に乗せる」ことができれば、メンバーも仕事を「楽しいもの、自分をハッピーにしてくれるもの」だと捉えてくれる。

 特に新卒社員の教育をする場面では、「社会人ともなると厳しい現実に向き合わなくてはならない」なんて叩き込むよりも、「工夫をしながら働くのは楽しいこと」というメッセージを伝えるほうが大切だと思っています。「顧客のことを考えて工夫をしたら、最初は至らないことがあっても、上司はまずは、その工夫をしようという姿勢を褒めてくれた」という心理的安全性が確立されていれば、個人の仕事量は一気に増えるんです。

 あえて言うと、その点が認知科学のアプローチと対立するところかもしれませんね。たとえ「褒める」というポジティブな行為であっても、上司による働きかけである以上は、外因的な動機づけということになりますから。内発的に生まれた行動でないかぎり、長期的には職場がたるんでいくというのが、『チームが自然に生まれ変わる』のスタンスです。

石井 その点でいうと、外発的動機づけ、つまりリーダーや管理職が褒める・感謝を伝える、だから行動が増えるというのは「レベル1」、内発的動機で駆動されて仕事をすることは「レベル2」と表現してもいいかもしれません。そして、意外と内発的動機を持つためにも、最初この「レベル1」でフォローすることは、実は十分役に立つんです。イメージでいうと、レベル1のピアニスト、たとえば「親が褒めてくれるからピアノを弾いていた」子どもが、弾き続けているうちにピアノを弾くことそのものが楽しく感じられるようになる。

 具体的には、自分が鍵盤を押すに従って自由自在に美しいメロディが聴こえることそのものがハッピーに感じられ、もはや親からの称賛が必要なくなる。こんなふうに、内発的動機づけされている状態、いわば「レベル2」へ移行するための補助線として、ハッピー駆動の外発的動機づけは、実は重要だったりします。

 さらに、少し専門的になってしまいますが、行動分析を礎につくられた言語行動の理論(関係フレーム理論/RFT)では「レベル3」の行動の増やし方について研究されていて、「言葉」が「みかえり」の威力を上げることが分かっています(オーグメンティングと言います)。

チームが自然に生まれ変わる』で書かれた「Want to(心底やりたいこと)」は、このレベル3に相当するものだと言ってもいいかもしれませんね。大変なことであっても「いま自分が取り組んでいる行動がWant toだ!」という実感があるとき、「大変な仕事」はもはやアンハッピーなみかえりではなく、大切なことへ近づく一歩と感じられるわけです。

 行動分析、とくに「レベル1」的な外発的動機づけのアプローチと、「セルフ・エフィカシー(自己効力感)」は違うものだけど、人・組織の行動を変えるための方法論として、目指すところが似通っているのはたしかですね。

石井 心理的安全性と「真のWant to」の関係でいうと意外とこの2つは独立したものではなく「ニワトリが先か、タマゴが先か」のような話なのかもしれません。組織のメンバーが「真のWant to」に根差したゴールを設定して、それに対してエフィカシーを抱けるのは、ベースに率直に意見を言い合えるような心理的安全性の高い環境があるからとも言えると思うんです。

 なるほど。そして逆に、組織のメンバーがそれぞれのWant toに沿ってゴールを目指していれば、リーダーが口うるさく叱責したり、報酬をちらつかせたりする必要はなくなるから、心理的安全性も高まっていくでしょうね。

第4回に続く

リーダーの仕事は、部下を褒めて「乗せる」ことなのか?左から李英俊さん、石井遼介さん。お互いの著書を持ちながら