子育て世代の英語教育熱は年々、高まる一方だ。2020年から小学校で英語が正式教科となり、さらに昨年から始まった大学入学共通テストでは英語の出題パターンが刷新されるなど、英語学習を取り巻く環境が大きく変化しているからだ。
いまや、日本の大学ではなく海外の大学に直接進学するケースも珍しくない。そのため、子どもが学校で後れを取ったり大学受験で失敗したりしないように「家庭で英語をどう教えればいいのか」、「どうすれば英語力が伸びるのか」と悩む保護者も多いだろう。
そこで参考になるのが、元イェール大学助教授で現在は英語塾の代表を務めている斉藤淳氏の著書『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)だ。
本稿では本書より一部を抜粋・編集して、親が絶対にやってはいけない「間違った英語教育法」を解説する。

親が絶対にやってはいけない「子どもへの間違った英語の教え方」とは?Photo:Adobe Stock

「文法ファースト」の教え方は絶対NG

 子どもに英語を学ばせるときに、やってしまいがちなのが、最初から文法だけを教えてしまうことです。

「英語」がそれなりにできた親ほど、子どもがまだ小学校低学年なのに、文法の参考書や問題集を買い与えてしまいがちです。もしお子さんがまだ10歳以下なら、「文法ファースト」の学び方は、絶対に避けるべきです。

 たしかに、親の世代が高校の「英語」でまず習ったことといえば、S(主語)、V(動詞)、O(目的語)、C(補語)からなる5文型だったのではないでしょうか。中学でも、ひととおり簡単な挨拶を学んだら、次にbe動詞の解説が待っていたと思います。

 フォニックス(※)のような「音のルール」はしっかり押さえるべきですが、逆に、「構文上のルール」には重きを置きすぎないようにしてください。

フォニックス…英語の「文字」と「代表的な音」をセットで覚えて、英語の正しい読み方を簡単にマスターできる学習法。詳しくは「英語が得意な子」の親がやっている2つのこととは?

「文法だけ」を学ぶ学習モデルは不適切

 もっとも、僕は文法学習を否定する気はありません。僕が代表を務めている英語塾J PREPでも、中高生向けの授業では、意外と多くの時間を文法学習にあてています。

 ただし、中学生から本格的に学びはじめた生徒の場合、だらだらと中高6年間をかけるのではなく、中学3年間で大学受験レベルまでの文法知識を一気に網羅します。そのあとで、多読や作文、会話練習などをしながら、知識を定着させていくのです。

 ですので、ここで問題にしたいのは、文法を学ぶことそのものではありません。そうではなく、「文法だけ」を抜き出して学ぶ学習モデルのほうです。

 ここで思い返していただきたいのは、赤ちゃんの学び方です。

 赤ちゃんは参考書で日本語文法を学んだりはしません。実際の食事の面では、ミルクや母乳、さらには離乳食というようにステップを踏むかもしれませんが、言語習得の面では、さながら野生動物のように、大量の音声を「かたまり」のまま、たくましく摂取していきます。そうこうするうちに、次第に生の言語を消化できる強靭な胃袋が備わっていくのです。

映像を見ながら学ぶのがベスト

 では、どうすれば英語を「かたまり」のままインプットできるのでしょうか?

 先に答えを言ってしまえば、ベストなのは映像です。

1)一定の「状況」を「目」で見ながら、
2)変化する「音」を「耳」で聴き、
3)同時に「発声」を「口」で行う

 この3つを再現し、聴覚と視覚を同時に刺激できる動画こそが、「人類最強の語学学習法」を可能にします。どういうことなのか、もう少しご説明しましょう。

本当の語学力が身につくトレーニング

 言葉の意味はつねに「状況」ないし「文脈」のなかにありますから、本当に使える語学力を身につけるためには、状況のなかの意味を理解するトレーニングが欠かせません

 言葉の辞書的な意味や、形式的な文法を学ぶだけでは、言葉の瞬発力は絶対に鍛えられないのです。

 次のような例文と解説があるとしましょう。

Could you open the window?
――CouldはCanの過去形。ここでは過去の意味ではなく婉曲表現の用法なので、『窓を開けていただいてもよろしいでしょうか?』というより丁寧な意味になる

 しかし、この解説はどこまで正確でしょうか?たとえば、映画のワンシーンで、老紳士が窓を指差しながら、主人公にものすごい剣幕で「Could you open the window?」と叫んでいるのだとしたら?

形式的な文法学習だと「本来の意味」は理解できない

 言葉の表現は同じですが、「状況のなかの意味」はまったく異なります。むしろ、couldを使うことで慇懃無礼な感じや命令的な態度がいっそう強調されています。しかも、ちょっと嫌味なニュアンスを込めたこういうcouldの使い方は、決して珍しいものではありません。

 状況から離れて形式的な文法だけを学んでも、「本来の意味」は抜け落ちてしまいます。だとすれば、老紳士がそうやって叫んでいる様子を「映像」で見ながら学ぶほうが、はるかに効果的だと思いませんか?

(本稿は、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』より一部を抜粋・編集したものです)