都内のパワーカップルをターゲットにする
木下 先日、流山市長と話をする機会があったのですが、もともとはアメリカの都市再生コンサルティング会社で働いてたという珍しいキャリアの持ち主なんです。
上田 それは、知りませんでした。
木下 基本的にアメリカの場合って、どこかの都市再生とかをやるときにも、基本的にイグジット(出口)は不動産の価値が上がって、基本的に初期投資分を回収するということをやらないと、逆に納税者から訴えられたりするわけです。
上田 固定資産税の将来的な上昇を見込んで、アメリカでは市が主導して先行投資をする制度、TIF(Tax Increment Financing)も常套手段ですよね。
木下 流山市はすごいシンプルな戦略だなと思ったのは、2000年代から膨大に増加していた都内で働いてる世帯年収1000万から1500万円ぐらいのパワーカップルをメインターゲットにしたことです。その層が増大しているのに、どこの首都圏の自治体にも両親共働きを基本として必要とされる行政サービスを優先的に行うところがなかった。その穴をついているのです。それなりの企業に夫婦ともに働く2人、お金的には問題ないけど千代田区とか港区とかに住んでいたら、そもそも保育所がないから、どちらかが失職する可能性があると。しかも子育てするのにこの都市部環境は本当にいいのか、も疑問。その人たちに向けて、ぜひ流山で子育てしてくださいねということで、それまで4ヵ所しかなかった保育園を一気に67とかに拡大。さらに駅前にワンストップで市内保育所への送迎も行うようにして、兄弟が別々の保育園に通っても親の手間は増えないようにしています。これらをどのように回収するかは2つ。1つは住民税所得税、そして彼らが購入するマンション、不動産から生まれる固定資産税です。その仕様、プライシング(価格決定)も、かなり市長自らディベロッパーと協議したということで、このお話を聞いて、ここまでやる市長はなかなかいないなと思いました。
上田 それは、すごい戦略家ですね。エグジットを官が主導するには数字(Pro Froma分析)がよっぽどできていないとステークホルダーを説得しづらいですからね。