流山市長のクリエイティングアルファ戦略

木下 最初はデベロッパーに任せてとなると、ちょっと小さい部屋で、売りやすい価格でみたいになりますよね。流山ですからね。沿線でも安い部類になってしまう、そういう町のポジションでした。業者からすれば確実に売れる、つまり安い値段で売ろうというふうにするところを、いや、うちが今集客をしている住民は、世帯年収が高い人たちだから、そんな安いマンションにしないでくれと。それで、戸数を減らして一室あたりの広さを大きくとり、マンション自体の単価を上げるとか、戸建ての場合にもランドスケープとかをちゃんと最初に設計をして、やっぱり綺麗に見えるということから入ろうとしたわけです。また世界中をみて木がたくさん植わっているエリアの不動産価値が上がるという法則に基づき、森のある駅前にしようということで、自動車進入禁止のところにいっぱい木を植えたのです。さらに景観条例や家やマンションへの植樹推進などを積極的に行っているのです。

 普通だったら駅を下りたときにロータリーだけがあって、タクシーとかバスがある無機質な駅前をガラッと変えた。これは民間ディべではできないことで、市役所として投資して取り組むべきところですが、大抵はどこも同じような配置になり、特徴なき駅前になるんですよね。だけど、市の経営からすれば、やっぱりブランディングとランドスケープと公共投資をやりながら、不動産事業者にも適切に投資してもらい、固定資産税自体の総収入を上げていく。そうして高い年収の人たちが街に来てくれるので、市民税もちゃんととれる構造になる。官民が両方がその意図を理解し、チームとしてやっていくと、やっぱり不動産価値ってちゃんと上げられるというお手本なんだと思います。不動産価値って上がるものではなく、上げられるものというのが日本ではまだまだ希薄ですね。

上田 まさしくその通りですね。分野横断的な総合力がものを言いますね。

木下 この戦略は実際には2000年代からの20年間はパワーカップル世帯は成長市場でもあったわけで、なぜに首都圏の郊外都市だけでなく、東京都内でもちゃんとやらなかったのという話でもあります。単にマンション建設推進はしても、トータルでの子育て支援を徹底すればよりパワーカップルを確保でき、財政的にも結果としてはプラスになったはずなのです。そして流山市の今のようにこの世代の子育て世帯における子どもの数が1人ではなく、3人、4人という世帯ももっと増えたかもしれません。不動産の視点での開発が、結果として少子化対策にもなっているのです。とはいえ、今度は固まった子育て期の世帯の人たちも、子どもたちが大きくなり、次のテーマへとシフトしていこうとしています。流山市はこれからその課題と向き合うところにきています。

上田 やはり、都市再生コンサルで働いていたというキャリアから生まれる戦略、そして実行までのアクションプランは見事ですね。数字がわかっている市長でないと実現できない。

木下 でも、これがもし安いどうしようもない不動産しかなければ、さすがにここには住みたくないなって話になっちゃう。そこをちゃんと、これぐらいの所得の人たちだからこういうものが必要ですということをちゃんとやったというのが流山のケースです。

上田 素晴らしいですね。流山市長もまさにクリエイティングアルファ(新しい価値をつくる)を実現されたんだと。都内近郊では安かろう悪かろうのファミリーマンションやワンルームマンションが量産されて、節税対策や投機目的になってしまってきている。ここに各地方自治体も規制をかけてはいたり、良好な住環境には税制優遇措置をあたえたりとしていますが効果は限定的ですね。そんな中で、先に高年収世帯のパワーカップルのための保育所をつくるのは、よい住環境や子育て環境に敏感な世帯を惹きつけるポジティブな連鎖が起こるための非常にいい最初の一手だなと思いました。

つづく