みずから海外企業の子会社になってまで
成長を追い求める
巨額の資本を投じ、海外からの第三者割り当てを受け入れて、実質的に外資系企業となった日本ペイントである。借り入れ中心による積極的なM&Aによって、一気にグローバル企業となった日本たばこ産業やアサヒグループホールディングスなどの事例は国内にも複数存在する。また、業績不振から海外資本を受け入れた結果、海外企業の子会社となったシャープのような事例もある。
しかし日本ペイントのようにみずから主体的に海外資本を受け入れ、海外企業の子会社になってまでして、成長市場であるグローバルマーケットをつかみに行ったという事例は、ほとんど見られない。
2021年に1.3兆円の買収資金を第三者割当増資で調達してウットラムが6割近い株式を保有する親会社になったことについて、田中正明CEO(当時)は「乗っ取りかどうかなんてこだわっていません。(中略)いろいろな議論はありましたが時価総額は10年前の20倍です。経営としては成功でしょう」と語っている(*1)。
大型M&Aが一段落したうえでは、次に掲げるべきは自社の事業となったすべてのエリア、すべての製品のオーガニック・グロースである。これを2021年から始まる新中期経営計画において、細分化された売上高成長率で示したということであろう。
もちろん問われるのは数値を細かに開示するか否かではない。開示した数値をどこまで達成できるのかにある。経営に100発100中などあり得ないが、少なくとも何がうまく行き、何がうまく行かなかったのか。日本ペイントに関わるすべてのステークホルダーは、細分化されたCAGRを基に議論することが可能な基盤を提供された。
図表5は、日本ペイントの中期経営計画でまとめられた財務計画の一覧である。全社連結ベースにおける売上高成長率目標については、2021年12月期は14%とし、2021-2023年CAGR10.0%+、2024年からのCAGR1桁台後半というガイドラインを示している。2021-2023年のCAGRは、売上高10.0%+→EBITDA20.0%→EPS25.0%と、P/Lの下に行くほど高くなるという理想的な姿を示している。
日本ペイントの真のグローバル経営力が問われる3年間となろう。これを自認するようにして、日本ペイントの新中期経営計画の資料は、1枚のスライドに次の言葉を大きく1行で示して結ばれている(*2)。
(本稿は、『企業価値向上のための経営指標大全』から一部を抜粋・編集したものです)
*1 「編集長インタビュー-[日本ペイントホールディングス社長兼CEO]田中正明氏-乗っ取りか否かは小事だ」『日経ビジネス』日経BP社、2021年2月22日号
*2 日本ペイントホールディングス「日本ペイントグループ 新中期経営計画(2021-2023年度)」2021年3月5日