東証再編#12Photo:Martin Barraud/gettyimages

プライム市場への移行基準に引っ掛かった企業が、資本政策を相談する相手は金融機関だ。株にまつわる支援策は、野村證券や大和証券など大手証券会社の“専売特許”だが、メガバンクなど大手銀行グループは、銀行・信託銀行・証券会社の合わせ技で牙城に切り込む。特集『東証再編 664社に迫る大淘汰』(全25回)の#12では、金融機関同士の顧客争奪戦の裏側に迫る。(ダイヤモンド編集部 田上貴大)

プライム不合格664社を救えるか
野村・大和vs銀行の顧客争奪戦が勃発

「株を売り出して、流通株式数を増やしませんか?」

 証券会社の営業マンからの提案に、ある上場企業の社長は顔を曇らせた。東京証券取引所の市場再編を控え、1部上場のこの企業は「流通株式時価総額100億円以上」の項目が未達であることから、プライム市場への移行に暗雲が垂れ込めていた。

 そこで主幹事証券の担当者に相談したところ、大株主に持ち合い株式の削減をお願いしていたこともあり、その株式を市場に放出して流通株式数を増やす計画を持ち掛けられた。

 ただ、市場に大量放出すれば株価は下がり、結果として時価総額が低位にとどまりかねない。だからこそ、株式の売り出しに難色を示したのだが、営業マンは舌の根の乾かぬうちに次の提案を持ち掛けてくる。

「分かりました。では、立会外分売でいかがでしょう?」

 立会外分売とは、大株主の保有株式を小口に分けて、市場の取引時間外に売り出す資本政策の一つだ。取引時間外だからこそ、市場売却時の株価下落リスクを抑えられる。

 だがしかし、「それは既存株主に対して、『今より低い株価で証券会社に一斉に株を売ってくれ』と言うことだろう。その手数料でもうかるのは証券会社だけだよね。これまでうちを支えてくれた既存株主に、そんなことは言いたくない」と、社長は提案を突き返したという。

 東証の1次判定において、“プライム不合格”を通達された企業は664社あった。こうした企業が、資本政策のアイデアを求める先は金融機関となる。

 やはり、「餅は餅屋」ならぬ「株は株屋」というべきか。企業が最初の相談相手として選ぶのは、主幹事証券が大半だ。主幹事社のシェアが大きい野村證券と大和証券の二大独立系証券会社にとって、東証の市場再編は格好の追い風となっている。

 とはいえ、だ。冒頭の事例のように、株価と株主との間でジレンマを抱え、主幹事証券の提案が刺さらない企業もある。

 そもそも、プライム移行基準の一つである「流通株式時価総額100億円以上」に満たない企業は、時価総額そのものが大きくても300億円クラスで、中には2桁億円というところもある。この事業規模の企業は、「証券会社自らが積極的に営業しに行く先ではなかった」(大手証券幹部)。

 しかも、悩み事は企業によっててんでんバラバラだ。「提案はオーダーメードになる。時価総額が100億円だろうが1000億円だろうが1社にかける労力は変わらない」(同)という。

 それ故、主幹事社を務める企業以外に営業をかけようと思っても、「手が回らない」(大手証券の営業担当)。主幹事先からの相談には乗れても、手間暇を考慮すると、新規に営業攻勢をかけるほどビジネスのうまみは大きくないようだ。

 これらの点に、メガバンクをはじめとする大手銀行グループは活路を見いだした。銀行はむしろ積極的に企業の“救済”に動き始めており、熾烈な顧客争奪戦の様相を呈している。