集団の空気を「自分で思いついた考え」だと思い込んではいないか

 で、これやっかいなのが、悪口言われる側もさ、特に職場なんかだと、集団がおかしいという空気に気がつけないんだよね。職場の場合、真面目な人ほど「仕事ができない私が悪い」「私がみんなに迷惑かけてるから、責められるのは当たり前。むしろ指摘してもらえてありがたいと思わなくちゃ」とか、自分を責めちゃうわけである。そうなると、そんな「自分が悪い」の思考停止状態からなかなか抜け出せなくなってしまって、自己肯定感がどんどん落ちていって……と、マジでしんどいですよね(遠い目)。いやー、私も学生時代、アルバイト先の飲食店で悪口を言われるターゲットになったことがあるが、あれは本当に辛かった。「周りの空気がおかしい」と気がつくまでにすごく時間がかかったし、辞めたあともしばらく「私は仕事ができないんだ」とトラウマ状態になっちゃったしね。

 だから逆に、誰の悪口も言わず粛々と明るく、不機嫌にもならず、自分のやるべきことをやるっていうリーダーシップの取り方がいかに大変かということがよくわかる。誰かを悪者にした方がずっと簡単なんだよ。なのにそれをやらずに、感情で周りをコントロールしようとせずに結果を出す人って、本当にすごいよね。

「本当にいいリーダーの見極め方」ってなんだろうと私はよく考えてしまうけれど、個人的には「特定の誰かを悪者にしてリーダーシップを取ろうとする」という手法をしないかどうか、が一番大事じゃないかと思っている。「あの人に嫌われたらやばい」という恐怖心は人を動かす圧倒的なモチベーションにはなるけれど、それってやっぱりフェアじゃない。結果を出すためにはそういうやり方もやむを得ない……という考え方もあるかもしれないけれど、私はどうしても好きになれないなあ。甘いかもしれないけどさ。

 私自身もだいぶ愚痴っぽいし、無意識のうちについ誰かを悪者にする流れに乗りたくなっちゃうこともあるから(その方がラクだし「自分は正義」と思える安心感・優越感もある)、いつも冷静で明るく、不機嫌で人をコントロールしようとしない人は心から尊敬してしまう。まだまだそんな素晴らしい人間にはなれないけど、まずは悪口を言っちゃう・誰かを悪者にしたくなっちゃう自分の弱さに自覚的になって、自分の汚いところから目を逸らさないようにしないとな。自分は思っている以上に集団に流されやすくて、集団の空気を「自分で思いついた考え」だと思い込んでしまうところがあると、強く言い聞かせておかなくちゃ。

 いい人間でいるのはすごく難しいけど、せめて「いい人間であろうとする」努力くらいはし続けたいし、し続けるべきだよなあ。

誰かの悪口を言うことでリーダーシップを発揮する人川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。
Twitter@kawashirosaki