「大切にしている価値観」から目的を作る

「ぶっとんだ目標」、つまり自分の本当に成し遂げたいことに気づいたら、ここで「目的」と「取り組み内容」を明確にするステップに入ります。「目的」は「何のために/誰のために」で、「取り組み内容」とは、「いつ・どこで・何をするか」を決めることです。

「英語が話せるようになりたい」という夢から「1年以内に外資系企業に転職するために英語を身に付ける」という明確な目的を導き出せば、「転職活動を有利に進めるためにはTOEICの点数を800点以上にすることが必要」「そのためには、リスニング力を上げることが不可欠だから、まずは過去問を使ってリスニングを最優先で勉強しよう」というように具体的に取り組むべきことがわかり、すぐに勉強を始めることができます。

 会社やチームの目標を立てるときも同じです。

「昨年の売り上げの10%増」といった数字をただ押し付けるのではなく、企業や部署としての大きなビジョンや理念を社員と共有し、そこから納得感のある具体的な目標を導き出すといったプロセスが重要なのです。

 また、「社員」と一くくりにいっても、人はそれぞれモチベーションがアップするポイントが異なるため、チームの目標をさらに1on1などで作戦会議をして個人レベルに落とし込んでいく必要もあるでしょう。

 その際に意識したいのが、「人が行動する三つの目的」です。

 私がこれまで1万5000人以上の夢や目標の実現をサポートしてきた中で、人が行動する目的は三つに大別できるということがわかってきました。というのも、行動する目的は、その人の価値観に根ざしたもので、その価値観が三つに大別できるからです。

 その価値観とは、次の三つです。

(1)人とのつながり
(2)達成
(3)技術の追求

「(1)人とのつながり」とは、感謝されたり、絆が強まったり、人間関係が充実することを大切にする価値観です。「ありがとう」と言われるとモチベーションが上がる、チーム全員で結果を出すことに喜びを感じる、部下や後輩の育成や成長に関心がある、という人は、人とのつながりを大切にしています。

「(2)達成」は、文字通り、目標を達成したり、困難な課題を乗り越えたりすることを大切にする価値観です。目標や新記録の達成がかかるとやる気になる、自己成長や昇進・昇給に対する意欲が人より高い、という人はこの価値観を最も大切にしているといえます。

 最後の「(3)技術の追求」は、専門性を深めたり、自分の意思や個性が尊重されたりすることを大切にする価値観です。独創性・オリジナリティーを追求したい、開発や研究、創意工夫をすることが好き、という人は、この価値観を最も大切にしています。

 これらは私たちの思考のベースとなるものなので、どれも重要ですし、誰もがこの三つの価値観を持ち合わせています。ただし、人によって優先順位が異なります。

 例えば、「今月○○万円の売り上げを達成する」という目標があるとします。

 三つの価値観のうち「(2)達成」を最も大切にするAさんにとっては、売り上げ目標達成というのは自身の価値観そのものなので、すぐ行動しやすいわけです。

 しかし、「(1)人とのつながり」を最も大事にするBさんにとっては、金額ベースの目標だけでは、今一つしっくりきません。このような場合、例えば「必要としている○人に商品を届ける」「商品の販売を通じて笑顔の人を増やす」といった、自身の価値観に基づいた目的を設定することで、行動に結びつけることができます。

 また、「(3)技術の追求」を大切にするCさんは、「誰でも毎月○○円売り上げられる販促プランを開発する」「自分にしかできない方法で○○円の売り上げを達成する」といった目的を設定すると行動しやすくなります。

 仕事以外にも、例えば、ダイエットであれば、「(1)人とのつながり」の価値観を持つ人なら「痩せて、恋人を見つけたい」。「(2)達成」なら「3カ月で5キロ体重を落とし、自己ベストを更新する」。「(3)技術の追求」なら「食事制限と運動を組み合わせた、オリジナルのダイエット法を開発する」などの目的が考えられます。

 せっかく組織や個人の数値目標があるのであれば、一歩踏み込んでモチベーションが上がる目標も一緒に立ててみませんか。このように、スタッフ一人一人の価値観を把握し、それをベースに「なんのため?」「誰のため?」を考えることで、それぞれにふさわしい目的を設定することができます。ぜひ取り入れてみてください。

◎大平信孝(おおひら・のぶたか)
メンタルコーチ
アンカリング・イノベーション代表。目標実現の専門家。長野県生まれ。中央大学卒業。脳科学とアドラー心理学を組み合わせた独自の目標実現法「行動イノベーション」を開発。現在は、法人向けに、チームマネジメント・セルフマネジメントに関する研修、講演、エグゼクティブコーチングを提供している。個人向けには「行動イノベーション年間プログラム」とオンラインサロンを主宰。近著に『部下は動かすな。」(すばる舎、2022年)、『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ  科学的に先延ばしをなくす技術』(かんき出版、2021年)、『先が見えなくても、やる気が出なくても 「すぐ動ける人」の週1ノート術』(PHP研究所、2021年)。公式サイト:http://an-i.info/