コロナ禍でも大きく落ち込まなかったのは
積極果敢な海外M&Aの賜物

 図表2に示したリクルートの連結セグメント情報では、自社グループを3つのセグメントに分けて開示している。

セグメント1 HRテクノロジー事業
テクノロジーを活用した求人広告や採用ソリューションサービスをグローバルに提供
SBU統括会社:RGF OHR USA, Inc.
主な会社:Indeed Inc.、Glassdoor Inc.

セグメント2 メディア&ソリューション事業
日本国内での、住宅、結婚、旅行、飲食、美容などの分野でクライアント企業の集客や経営・業務効率の改善等支援、およびクライアント企業の求人活動およびユーザーの求職活動の支援サービスを提供
SBU統括会社:(株)リクルート
主な会社:リクルート住まいカンパニー、リクルートライフスタイル、リクルートマーケティングパートナーズ、リクルートキャリア、リクルートジョブズ

セグメント3 人材派遣事業
日本国内、および北米、欧州、豪州などにおける人材派遣サービスを提供
SBU統括会社:RGF Staffing B.V.
主な会社:㈱リクルートスタッフィング、㈱スタッフサービス・ホールディングス、Staffmark Group, LLC、The CSI Companies, Inc.、ADVANTAGE RESOURCING UK LIMITED、Unique NV、USG People France SAS、USG People Germany GmbH、USG People Holdings B.V.、Chandler Macleod Group Limited

 リクルートは海外では、2009年から「RGF」(Recruit Global Familyの頭文字)というコーポレートブランド名にて事業展開を図っている。図表3は、リクルートが開示するセグメント別の売上収益とEBITDA、およびEBITDAマージンをまとめたものだ。リクルートはEBITDAマージンという用語そのものを用いて、全社および各セグメントの収益性について一貫して伝えている。

M&Aを繰り返すリクルートがEBITDAを採用すると都合がいいのはなぜか図表3 リクルートホールディングスの連結セグメント別売上収益、EBITDA、EBITDAマージンおよび各構成比(構成比は連結相殺前)

 新型コロナ感染症の影響がほぼ入らない2020年3月期において、売上構成比が全社の過半数に達し、EBITDAマージンも最も高い(24.2%)のは、日本国内で展開するメディア&ソリューション事業である。

 海外に積極的なM&Aで拡大を図るリクルートだが、あくまで現在の稼ぎ頭は、住宅(SUUMO)、結婚(ゼクシィ)、旅行(じゃらん)、飲食(HOT Pepperグルメ)、美容(HOT Pepper Beauty)など、多くの日本人がそのブランドを認識するほどに私たちの日常生活に浸透したサービスである。加えて同事業では、リクルートの祖業とも言える、HR支援(リクナビ、TOWN WORK、JOB QUICKER、ジョブオプLite)などのサービスも含まれる。

 EBITDAでの議論であるため、他の2事業はM&Aの影響による無形資産の償却負担で劣後している、ということは理由にならない。すべての償却が足し戻されたEBITDAにおいて、最も効率よく稼いでいるのは国内のメディア&ソリューション事業だということだ。

 一方で、年間を通して新型コロナ感染症の影響を受けた2021年3月期にEBITDAの落ち込みがもっとも激しいのもまた同事業である。結婚、旅行、飲食などは、国内における緊急事態宣言の影響をもっとも壊滅的に受けた業種である。国内の人材募集事業も一時的に大きく落ち込んだ。こうした業種向けに国内でのサービスを提供するリクルートのメディア&ソリューション事業に対するお金の流れがストップしたことは致し方なかろう。

 それでもリクルートの連結の数値が大きく崩れなかったのは、積極的に進めた海外M&Aの賜物である。HRテクノロジー事業は有料求人広告利用の増加が続き、また人材派遣事業では、海外の一部の産業における事業回復からの復調を遂げている。

 リクルートの連結売上高営業利益率は7.2%であるのに対して、連結EBITDAマージンは10.6%である。両者の差となる3.4%ポイントはおおむね減価償却費から生じているが、あいにくリクルートはセグメント別の営業利益や減価償却費を開示していない。徹底したEBITDA重視の経営の表れととれる一方で、セグメント別の減価償却の動向が見えにくいという弊害も生じている。