全国2700社が導入し、話題沸騰のマネジメント法「識学(しきがく)」の代表・安藤広大氏の最新刊『数値化の鬼』。「仕事ができる人」に共通することは、「数字で考えること」や「数値化のクセをつけること」だと言う。数字によって自分の不足を客観的に受け入れ、次の行動設定や行動変容につなげることによって、人は「急成長」する。「数字で人を見るな」「数字がすべてではない」ということはよく言われるが、「数字」は決して無視できない存在。この本では、「感情を横に置いて、いったん数字で考える」「一瞬だけ心を鬼にして数値化する」など、頭を切り替える思考法を紹介する。

上司と部下のすれ違いを生み出す「ある言葉」とは?Photo: Adobe Stock

お互いの「誤解」をなくしてくれるもの

 そもそも「数字」とは何でしょうか。

 それは、誰が見ても明らかな「客観的事実」です。

リンゴをたくさん食べた
いや、ちょっとしか食べていない

 これを聞いて、人がイメージすることには個人差があります。

 しかし、「リンゴを2個食べた」となると、それは絶対的に「2個」です

 そこに誤解や錯覚は発生しません。

 私たちの「識学」という組織理論では、組織の中の誤解や錯覚を取り除くことを目的としています。

 上司や部下の「認識の違い」の例は、挙げ始めたらキリがないほどに多くあります。

 そして、その誤解が生まれてしまう根底には、「数値化の欠如」があります。

 その問題にメスを入れるのが、「数字の重要性」なのです。

数字は「感情」を
切り離してくれる

 ビジネスには、つい感情が絡んでしまいます。

社長の『肝煎り』だから続けざるを得ない
現場に『愛着』があるから撤退したくない
社員全員、『身を粉にして』働いています

 こういう表現で議論していても、残念ながらビジネスは前に進みません。

 感情に訴えかける言葉でしか話せないと、必ず失敗を繰り返すようになります。そうではなく、

目標の『50%』の売上に届かなかったら事業は打ち切りにする
利益を『150万円以上』生む施策であれば進めていい

 というように、誰の目にも明らかな基準を設け、割り切ることが必要なのです。

 まさに、これが「数値化の鬼」となる瞬間です。

「言葉は過剰」
「数字は不足」の世の中

 人は、自分にとって都合が悪いときに、曖昧な言い方をします。

 やましいことを隠すときに、私たちは、「たくさん」「ちょっとだけ」「かなり」という言葉を使いますし、既得権益を守るときにも感情的な言葉を多用します。

 その場をうまくごまかすために「言葉」が進化したのかもしれないと思うほどです。

 人類の歴史を辿ると、人間は、抽象的な考えを相手に伝えるために、「数字」と「言葉」を発達させてきたことが理解できるでしょう。

 ただ、昨今のSNSをのぞいてみればわかるように、「言葉」のほうが過剰になりすぎています

 それは、誰でも簡単に使えるからです。

「こいつは嫌いだ」「この人は好感が持てる」などと、誰でも簡単に批評することができるのが「言葉」です。

「数字を語る人」が少なすぎる

 一方で、世の中には「数字」が圧倒的に足りていません。

 それは、自分からデータを集めたり、数字の意味をちゃんと分析したり、感情を横に置いて冷静に判断したりする必要があるからです。

 つまり、「数値化」はめんどくさい。だから、世の中は、「言葉」が溢れ返り、「数字」が足りていない状況になっているのです。

 もっと「数字」を用いて論理的に考え、判断する人が増えれば、感情的な炎上や足の引っ張り合いは減ります。

 あなたには、ぜひ「数字を増やす側の人間」になってもらいたいと思っています。

数字は「ズレ」をなくしてくれる

 数値化のメリットは、何よりも「コミュニケーションコスト」を減らすことです。

 リモートワークが常態化し、雑談が少なくなり、コミュニケーションの価値が見直されていますが、それでもムダなものはムダです。

 ここで言うムダとは、「データのない不毛な会議」「好き嫌いや空気の読み合い」「認識の違いによる仕事上のエラー」のことを指します。

「今月は営業訪問をすごく頑張りました」

 そう言っていたのに、実際には1日2件しか回っていないようなときがあります。

「すごく頑張る」という言葉だけでは、お互いの認識にズレが生じます

 その場合、何件回ったのか、数字も一緒にマネジャーに報告させるなど、数値化するためのルールを決めておく必要があります。

「数字のことばっかりうるさいな……」と思われることを恐れ、確認を怠る管理職は、管理職失格です。

 この「言葉による言い逃れ」がクセになってしまったプレーヤーは、そこで成長が止まります。

「数値化の威力」をモノにしよう

 友達や家族どうしの雑談なら、いちいち回数を確かめる人は、めんどくさいやつと思われるかもしれません。しかし、ビジネスの場では違います。

 空気で察してもらえるように、「もっと頑張ったほうがいいよ」とだけ声をかけるのでは、何の意味もありません

 日本の社会は、「言わぬが花」の精神で回ってきすぎました。高度経済成長期ならそれでもよかったのでしょう。

 しかし、これからの日本では、そうはいきません。

 そのムダを徹底的になくしていくのが、「数値化」の威力なのです。

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヶ月でマザーズ上場を果たす。2022年3月現在で、約2700社以上の導入実績があり、注目を集めている。最新刊『数値化の鬼』(ダイヤモンド社)の他に、29万部を突破したベストセラー『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)などがある。