10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。

左利きと右利きの「独創性」なぜ差が生まれるのか?Photo: Adobe Stock

「みんなと同じ」でないからこそ
工夫するクセがある

 私は自分が左利きのため、数少ない同志である左利きを見つけると察するクセが身についています。

 たとえば、クリニックの受付で名前を書く様子を見ると、左利きはペンを右側に傾けたり用紙をナナメにしたりして、それぞれに素早く書き込む工夫をしています。そもそも、日本語は「とめ」や「はらい」などが右利きに書きやすいようになっているのです。右利きだったら、枠の中に名前を書くことは、よくある作業の一つとしてなんの問題もなく、さっと終わらせるだけでしょう。

 でも、左利きは子どもの頃から、みんなはできているのに「自分は、なんでうまく書けないんだろう」「どうすればきれいに書けるのかな」と考えて試行錯誤してきた人が多いはずです。その結果、書きあがった文字も十人十色で非常に個性的なのです。

 字の書き方だけではありません。左利きは、人生のあらゆる場面で「みんなと違う自分」はなぜなのか、そして、どうすればまわりと同じようにできるのか、さまざまな視点で考え抜いています。

 たとえば、左利きがある意見を聞いて「自分は違うな」と思ったとしましょう。左利きの思考はそこで終わりません。

「こう思うのは、自分がおかしいから?」「それとも、内容の理解が足りないのかな」などと、あらゆる角度からなぜ自分だけ異なるのか考えます。そのため、右利きに比べて一つのことに対して考える時間が圧倒的に長く、そのぶん情報量も増大しますそうして左利きは、独自の発想を生み出していくのです

「みんなと同じではいけない」意識が
独創性を生む

 昭和の文人、小林秀雄は「模倣は独創の母である、唯一人のほんとうの母である」と「モオツァルト」の中で書いています。私は18歳のときに小林秀雄のファンになり、必死で著作を読み漁り、影響を受けました。たしかに、模倣は教育的意義も深く、脳を成長に導きます。しかし、独創に行き着くまでは容易ではありません。

 たとえば、発達障害の大人では、模倣は得意でも、独創性に欠ける場合も少なくありません。また、左利きが右利きの模倣をするのは、右利きが右利きの真似をするよりかなり厄介です。この厄介さが、脳の仕組みにしみこんでいるため、「みんなと違う」というコンプレックスから、いつの間にか抜け出していて、「みんなと同じではいけない」意識が強くなり、おのずと独創性を育むと考えられます。

 そして、脳が厄介さを感じるときは、脳番地の新しい領域が成長し始めるサインです。これまでの脳番地の使い方ではうまくいかないので、他の脳番地を使い始めているのです。(脳番地の関連記事:最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?)このサインを見逃さず、やっているものごとを継続して、おのずと独創的な結果がついてくるのは左利きに備わっている特性と考えています。

 左利きは、この特性を意識するだけで創造性の扉が開きやすくなります。

(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)

[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com