自分に「逃げ道」をつくっておくことも大事
井上:僕は、けっこうズルい人間なので、自分を追い込んでいる一方で、最終的な逃げ道をつくっている自覚もあるんですよ。逃げ道をつくるのが得意だからこそ、自分を常に追い込むという、二面性があるんです。
Tomy:ただし、自分の認識と実際の状態が乖離してることって、けっこうあるんですよ。クリニックを訪れる患者さんも、ほぼ全員が「まさか自分の調子が崩れるとは思わなかった」とおっしゃいますから。
井上:Tomy先生ご自身も、精神科医でありながらうつ病を経験されたそうですね。
Tomy:父親とパートナーを相次いで亡くした時期のことでした。もともとは仕事もある程度セーブしていたんですけど、1人でいても寂しいからアクセル全開で仕事に打ち込んだんです。寝る時間さえ確保できればいいだろうと思って、ずっと走り回っていたら、ある程度落ち着いたタイミングで一気に来ちゃって……。精神科医ですから対処法がわかっていたから、なんとかなりましたけど、本当にやばかったです。
井上:そうなんですか。
1978年生まれ。某名門中高一貫校を経て、某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。研修医修了後、精神科医局に入局。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、産業医。精神科病院勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務。29万フォロワー突破のTwitterが人気で、雑誌、テレビ・ラジオ番組にも出演。舌鋒鋭いオネエキャラで斬り捨てる人は斬り、悩める子羊は救うべく活動を続けている。『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』からはじまる「1秒シリーズ4冊」が人気で、最新刊で自身初の小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』も人気を博す。
Tomy:そう、おかしくなるんですよ。憂鬱とか落ち込むとかの延長じゃなく、平たい言葉で言うと、気持ち悪いんです。自分がこの場にいることが気持ち悪くなっちゃって、そこから逃げたい衝動に駆られる。次々と気持ち悪いことが頭の中で浮かんできて、それが終わらないから、止めようとして死ぬ人もいるだろうなって、実感しました。
幸いにして立ち直ったときに、「こういうときは、こういう発想をするといいな」って思いついたことを書きためてツイートした結果、たくさん反響をいただけるようになったんです。
そういういきさつがあるから、井上さんにも「自分を逃がす」という考えを持ってほしいと思っています。
井上:たしかに「自分を逃がす」というリスクヘッジをしておくことが大事ですね。ところで、精神科医の先生は毎日患者さんからいろいろな悩みを受けるじゃないですか。それで、自分自身の心はどうしてるんですか?
Tomy:ぶっちゃけ、ちゃんと聞いてないんですよ(笑)。
井上:むしろ、それを聞いて安心しました。
Tomy:ちゃんと聞くのは無理なんですけど、若いうちはやっちゃうんです。それでつぶれていったり、やめていったり、自殺しちゃう医師もいます。
今は、次の患者さんが入ってきたら前の患者さんのことを忘れるぐらいが理想だと思っています。そんなふうにコントロールしておかないと、本当に身がもたないですから。
井上:でも、「この人、私の話を聞かない」って悟られたらいけませんよね。
Tomy:最初からあまり好かれたり、期待されたりしないようにしています。最低限の仕事はしてくれるし、お薬は出してくれるし、不愉快にもならない。本当はもっと親切に話を聞いてくれてもいいのにと思うけど、まあ付き合ってやるわ……という程度に思われるのがベストだと思っています。
ただ、医者として本当はもっと話を聞いて、いろんなアドバイスはしたいとは思っているので、それを本で補完しているわけなんです。