バカは強い、バカは愛される、バカは楽しい、バカは得である――。国民的長寿お笑い番組の“黄色い人”として老若男女に大人気、バカの天才である林家木久扇師匠(84)が、バカの素晴らしさとバカの効能を伝える『バカのすすめ』を出版した。
世の中が息苦しさに覆われ、「生きづらさ」という言葉が広がる今こそ、木久扇師匠が波乱の体験や出会いから導き出した「バカの力」「バカになれる大切さ」は、ひときわ大きな意味を持つ。バカという武器に助けられた人生で起きた波乱の出来事や、「あの番組」の共演者&歴代司会者についての愛あふれる考察など、初めて明らかにする秘話もたっぷり。笑いながら読み進むうちに多くの学びがあり、気持ちがどんどん楽になって、人生観も見える景色も変わる一冊。この連載では本書から一部を抜粋し、再編集して特別に公開する。(構成 石原壮一郎)

【林家木久扇は見た】田中角栄に叱られたあとに感じた本当の「すごさ」とは!?撮影/榊智朗 撮影協力/浅草演芸ホール

ラーメンほど素晴らしい食べ物はない

 今や、ラーメンは日本の「国民食」です。あちこちに行列のできるラーメン屋があって、街を歩くと「あっ、また新しいラーメン屋ができてる」と気付くことがしょっちゅうある。もし世の中からラーメンがなくなったら、きっと暴動が起きます!

 ぼくが「全国ラーメン党」を立ち上げたのは、1982(昭和57)年のこと。「ラーメンブーム」の先鞭をつけたのはぼくです。

 その頃、ラーメンというのは、あまりに当たり前の食べ物過ぎて、誰もわざわざ注目なんてしない。人気のラーメン屋はありましたけど、メディアで取り上げたりはしませんでした。ぼくは昔からラーメンが大好きで、食べるたびに、こんな素晴らしい食べ物はないと思っていたんです。

 全国ラーメン党を結成するきっかけになったのは、前年に出版した『なるほどザ・ラーメン』という本です。ページが余ったから、「全国ラーメン党結成! 党員募集。会長・林家木久蔵。副会長・横山やすし」って書いちゃった。

 そしたら、入党申し込みが560通も来たんです。若い人だけじゃなくて、年配の方がラーメンへの熱い想いを切々と綴ってくださっているんですよね。

 ほおっておくわけにもいかないので、成り行きで「全国ラーメン党」っていう機関紙も発行しました。そこにまた「全国ラーメン党 決起大会迫る! 5月1日のメーデーは麺デーだ」という記事を書いたら、「どこでやるんだ」「絶対に行く」と、もう大盛り上がり。どんどん話が大きくなって、メディアからの取材申し込みも約60社からあり、引っ込みがつかなくなりました。

「全国ラーメン党」の結成から40年

 ノリと勢いで始まったんですけど、あとから考えると、我ながらいいところに目を付けましたよね。都立中野工業高等学校の食品化学科を出てるから、食べ物に関しては詳しい。「全国ラーメン党」が盛り上がったおかげで、自分好みの味に仕上げた「木久蔵ラーメン」を作って販売することもできたし、全国ラーメン党として店舗展開もできました。それから、もう40年です。

 ちゃんとものを考える人や食べ物の専門家を自認する人はたぶん、ラーメンなんて当たり前の食べ物には目を付けません。「フランス料理党」とか「懐石料理党」にするんじゃないでしょうか。あ、そもそも「党」にはしませんね。政治とは関係ないのに党を付けていいのかな……とか考えちゃう。

 そこは意外なアイディア生み出すことを看板にしているぼくの強みです。甘党、辛党って言いますよね。ラーメン好きはラーメン党なんです。「全国ラーメン党」にしたのは大正解でした。

 横山やすしさんは、最初はあんまりピンと来ていなくて「木久ちゃんが言うならやってみよか。おもろそうやしな」ぐらいの感じでしたね。やすしさんは大阪のスターだから、たしかラーメンよりうどんのほうが好きだったんじゃないかな。