バカは強い、バカは愛される、バカは楽しい、バカは得である――。国民的長寿お笑い番組の“黄色い人”として老若男女に大人気、バカの天才である林家木久扇師匠(84)が、バカの素晴らしさとバカの効能を伝える『バカのすすめ』を出版した。
世の中が息苦しさに覆われ、「生きづらさ」という言葉が広がる今こそ、木久扇師匠が波乱の体験や出会いから導き出した「バカの力」「バカになれる大切さ」は、ひときわ大きな意味を持つ。バカという武器に助けられた人生で起きた波乱の出来事や、「あの番組」の共演者&歴代司会者についての愛あふれる考察など、初めて明らかにする秘話もたっぷり。笑いながら読み進むうちに多くの学びがあり、気持ちがどんどん楽になって、人生観も見える景色も変わる一冊。この連載では本書から一部を抜粋し、再編集して特別に公開する。(構成 石原壮一郎)

【林家木久扇が語る】何度も死にかけたけどまだ元気でいられる理由とは!?撮影/榊智朗 撮影協力/浅草演芸ホール

2度のガンも腸閉塞も乗り越えた

 ぼくはこれまでに3度死にかけています。去年は大腿骨を骨折してお騒がせしましたけど、あれは命には関わらないので、ぼくにしてみればたいしたことじゃありません。

 最初にガンの手術をしたのは、2000(平成12)年ですから、もう20年以上前ですね。胃の3分の2を取りました。その前にも40歳になる年に腸閉塞になって、生還率50%と言われた手術を受けてます。

 喉頭ガンが見つかったのは2014(平成26)年。一時期は声が出なくなって、お医者さんから「いつ出るようになるかわからない」と言われたんですが、おかげさまで今は元気に高座をつとめるようになりました。

 命のピンチが何度もあったわけですけど、ぼくは「楽天家だから助かった」と思ってます。バカのゆるさでガンを追っ払ったんです。

 最初のガンは、内視鏡検査で見つかりました。カミさんがぼくの体を心配して「大学病院に検査に行ってらっしゃい」ってしつこく言うもんだから、しぶしぶ行って受けてみたんです。身体の中にカメラが入って、麻酔が効いてちょっと朦朧とした意識の中、モニターにピンク色のドームが写ってるなと思ってたら、先生の動きがパッと止まっちゃった。

「ここんところ白い突起があるんですがね……」

 検査が終わってから「まだ若くてお元気だからガン化が早いと思います。取っちゃったほうがいいでしょう」と、強く勧められました。だけど、5月でちょうど催し物が多くて、いちばん忙しいときだったんです。「秋じゃダメですか」って言ったら、先生が「早いほうがいいです」って。

点滴つないだまま「笑点」の収録に

 小さな突起だったんで、たいした手術じゃないだろうと思ってたんですが、開腹手術になって胃の3分の2を切り取られました。

「転移のおそれがありますから」ってことらしいです。40日間入院しました。

 地方の仕事は断わりましたけど、「笑点」の収録は休みませんでしたね。点滴つないだまま病院から後楽園ホールに行って、大喜利が終わるとまたつないで、看護婦さんと病院に帰ってきたんです。

 大喜利で指されてから「あれ、問題なんだっけ?」って忘れるやりとりは、いつもはネタとしてやってるんですけど、あのときは正座してるだけで精一杯だったから、本当に忘れていたかもしれない。

 でも、長年やっているから、それなりにちゃんと答えて座布団をもらったりして、テレビを見ている人には「いつもと違うな」ってことは気づかれてなかったんです。