“看板と「見せ方」を変えただけ”が経営の真骨頂
驚くだろうが、3業態の製品は全部がワークマンの既存店から抜き出したものだ。
3業態の専用の製品はない。
各業態に向けて看板と「見せ方」を変えただけなのだ。
その証拠に当社の製品開発部は1本化されていて、業態別に分かれていない。
製品の開発担当者は業態の違いを意識していない。
重点が異なるだけで製品は同じなので、会計的にも単一のセグメントとして決算を公表している。
これがまさに『ワークマン式「しない経営」』でふれた、経営の真骨頂なのだ。
「ワークマンシューズ」のイチ押し製品は「履くだけで前に進む靴」「雨の日でも走れるランニングシューズ」「カーボンプレート入りでマラソンも走れる2900円の本格派ランニングシューズ」「1900円のハイクシューズ」「高年齢者や妊婦さん用の滑らない靴」「走れて靴ずれしないパンプス」「全力疾走できるサンダル」などマニアックな機能を持った低価格製品だ。
ワークマンは世の中をアッと驚かせるシューズやウェアを毎年50点くらい開発している。
ただ、ワークマンの強みはコピーできる製品ではなく、「しない経営」や「エクセル経営」などの無形資産だ。
無形資産の例としてワークマン独自の製品開発手法がある。
ワークマンは「しない経営」なので、経営者が製品開発に口を挟まない。
「凡人経営」で100年の競争優位を
英明な経営者がいる企業は、経営者の御前ですべての企画をプレゼンして開発許可を取っているケースが多い。
ワークマンは余人をもって代えられる「凡人経営」で100年の競争優位をめざす企業なので、経営者はオールマイティでなくていい。
分業で各分野の製品開発者にすべてを任せる。
開発者が自分で決めると、失敗しても学習効果が高い。
逆に経営者が中途半端に口を出すと、失敗の原因になる。
干渉されたからうまくいかなかったと思い、意欲が削がれて学習効果もない。
ワークマンの製品開発には暗黙のルールがあって、1年目は売れると思う数量の半分くらいしかつくらない。
新製品の失敗のリスクを低減するのだ。
製品寿命は平均5年なので、2年目からが勝負だ。
「エクセル」でしっかり需要を予測して生産する。
2年目は1年目の販売データがあるので予測精度が高い。
これが小さな失敗を踏み台にして大ヒットを生むワークマンの無形資産だ。
一般客向けシューズを開発した経緯は、製品開発担当が作業者の通勤用のシューズを勝手につくったことから始まる。
職人さんが車で現場に向かう時は一般靴を履く。
作業靴だと車内が汚れるからだ。
帰りも履き替える。
通勤用から始まった一般シューズの売上は年間100億円を突破(作業靴売上は150億円)して急成長している。
女性客も増えた。
今では一般靴だけでも靴小売業界のトップ10入りしている。