年1度の最重要イベントを変えた理由

 ワークマンは期末に翌年度の経営方針発表会を開いている。

 年に1度の最重要イベントだ。

 以前は、社長が全社の数値目標を発表していた。

 続いて、部長が経営幹部に向けて各部の数値目標を「大声」でコミットした。

 高校野球の選手宣誓の口調に近い。

 気合いを入れて、頑張って達成する昭和のやり方だ。

 しかも目標数字は社長の発表の繰り返しだ。

 最後に参加者全員が起立して、企業理念を「元気」に唱和した。

 私はこれが嫌いだ。

 押しつけられたもので、思考停止で、人の「思い」が感じられないからだ。

 ずっと“違う”と思いつつ、急な改革は社員にストレスを与えるため我慢していたのだ。

 昨年からこれを一変させた。

 ワークマンは上場企業なので公表用の数値目標は必要だ。

 社長だけは数値目標を発表する。

 部長はそれと関係なく、社員に向けて自分が来期に本当にやりたいことや仕事への「思い」を披露する。

 押しつけではなく、自分の意志で決めた目標だ。

 やり抜く動機が高まる。

 1年目がうまくいったので、今年は30人に発表者を広げて、来期にやりたいことを自由に披露してもらった。

 部長クラスが「何をしたいか」は企業にとって重要なのだ。

 私から見て、間違った方針は1つもなかった。

 押しつけられて「頑張らせられる」のと、自分の「やりたいことをする」のでは、仕事の質が違ってくる。

現場の指導者は
経営者より少し優秀なほうがいい

 この発表を聞いて、将来が楽しみになった。

 ワークマンは100年間の競争優位が企業目標のため、経営者は交代がきく凡人でいい。

 経営者の抜きんでた才能や個性に依存したら永続性がない。

 ただし、現場の指導者は経営者より少し優秀なほうがいい。

 権限を現場に完全委譲しているからだ。

 重要な情報が現場にあるからだ。

 今、何をするべきかがわかるラインの指導者が30人もいることは心強い。

 もう社員をムリやり頑張らせる経営者はいらない。

 私がワークマンに転職したのは2012年だ。

 以来、社員にストレスをかけないよう、少しずつ企業の仕組みを変えてきた。

 経営幹部の昇格条件はコミュニケーション能力だったが、これを「改革マインド」「データ活用力」にした。

 1人の降格者も出さずに、8年もかけて最適な幹部の登用と配置を実現した。

 不要な「ノルマ」と「期限」は廃止した。

「自走型」の社員が着実に増えている。

 これがワークマンの強みだ。

 自分で正しい方向に走るので、会社が「頑張れ」と言う必要がないのだ。