ダイエット、禁煙、節約、勉強──。何度も挑戦し、そのたびに挫折し、自分はなんて意志が弱いのだろうと自信をなくした経験はないだろうか? 
目標を達成するには、「良い習慣」が不可欠だ。そして多くの人は、習慣を身につけるのに必要なのは「意志の力」だと勘違いしている。だが、科学で裏付けされた行動をすれば、習慣が最短で手に入り、やめたい悪習も断ち切ることができる。
その方法を説いた、アダム・グラント、ロバート・チャルディーニら一流の研究者が絶賛する1冊『やり抜く自分に変わる超習慣力 悪習を断ち切り、良い習慣を身につける科学的メソッド』(ウェンディ・ウッド著、花塚恵訳)より一部を公開する。

「やめたいのにやめられない」の正体とは?Photo: Adobe Stock

「まずいポップコーンでも食べてしまう」
習慣の威力

 私は同僚のデイヴィッド・ニールとともに、誰もが大好きな映画館の高すぎる軽食を使い、報酬の効果の継続についての検証を試みた。大学の敷地内にある映画館に出向き、観客にポップコーンを配って食べてもらうことにしたのだ。古くなったポップコーンは美味しくないが、具合が悪くなることはない。

 まずはポップコーンを大量につくり、それを1週間ほどラボに放置した。映画館では本編の上映が始まる前に、短い予告編が数本流れる。実験に協力してくれる参加者たちには、これは映画の嗜好に関する調査だと告げた。そして映画のお供として、ポップコーンの入った袋と水のボトルを各自に渡した。半数の参加者のポップコーンは古く、残りの半分はつくりたてだ。

 予告編が終わると、参加者からポップコーンの袋を回収した。どのくらい食べたかを測定するためだ。また、彼らには映画館でポップコーンを食べる頻度についても回答してもらった。これが習慣の強度を測る尺度となる。

 映画館でポップコーンを食べる習慣がないと報告した参加者の行動は合理的で、古くなったポップコーンよりつくりたてのポップコーンのほうが圧倒的にたくさん食べられていた。つくりたてのポップコーンは平均して70パーセント食べられていたが、古くなったポップコーンは40パーセントしか食べられていなかった。実験の場所がキャンパス内の映画館だったことを踏まえると、古くなったポップコーンでも食べたのは、ポップコーンが無料だったからとも言えるのかもしれない。

 だが、映画館でポップコーンを食べる習慣がある参加者になると、ポップコーンの鮮度に関係なく、袋の60パーセント以上が食べられていた。のちに、古くなったポップコーンは最悪だったと全員が口を揃えた。それでも、習慣のせいで食べることをやめられず、映画館に入るといつものようにポップコーンを食べた。その場で得られる楽しみといったものには、まったく無頓着のようだった。

 実験を行う前の予想では、参加者は自分が食べているものについて自ら検討し、食べ続けるかどうかを判断すると思っていた。だが、習慣を引き出す合図があまりにも強力だった。照明が暗くなり、予告編が流れ、手にはポップコーンの入った袋。これらが揃うと、いつもどおりの行動をとらずにはいられなかったのだ。