つらい体験だったが、いまではCEOや創業者として犯したすべての過ちに感謝している。率直に言って、私はひどい経営者だった。つらかった経験は、セールスフォース・ドットコムでの成功、そして現在のプレディクタブル・レベニュー社での成功につながっている。

 セールスフォース・ドットコムに入社したとき、私はエゴを封印し、年俸5万ドルの最も下級の営業職に就いた。ストックオプションも、確か0.002%というわずかなものだった。

 請われて入社したのだと格好をつけたいところだが、私はなんとしてもセールスフォース・ドットコムに入社したいと必死だった。

 CEOだった私は、セールスフォース・ドットコムでフリーダイヤルの電話対応の担当者になった(自分の幸せや将来のために重要だとわかっていることを、プライドのせいで踏み出せないという人には、そんなプライドは封印することをお勧めする)。2002年の後半、セールスフォース・ドットコムのサイトに登録した人なら、電話かメールで私とやりとりをしているかもしれない。

 私がその仕事を引き受けたのは、もう一度チャレンジして世界レベルの営業組織を立ち上げるために、現場でリアルなMBAを学ぶ必要があると強く思ったからだ。浮き沈みの激しい売上げではなく、予測可能な売上げを実現する方法を学びたかった。

 結局、私はまったく新しい営業プロセスを考案し、インサイドセールスを担当するチームを設け、わずか数年で売上げを1億ドル増加させるのに貢献した。その体制とプロセスは持続可能なもので、何年もたったいまでも好調を維持している。

 失敗したからこそ、もう一度最初からやり直そうと思えたのだ。いまでは、私は失敗に感謝している。あなたが犯した失敗は何だろう? それに対して感謝できているだろうか? その失敗を乗り越えたとき、どんなメリットをつかんでいるだろう?

「失敗」とは、わが身に起こったことを自分がそう呼んでいるにすぎない。本当は失敗などというものはなく、「学びの機会」があるだけなのだ。

1億ドルの増収をもたらした「気づき」

 私が入社したころ、セールスフォース・ドットコムは問題を抱えていた。高給を取る大勢のフィールドセールス担当者がいて、新規ビジネスの獲得と成約に当たっていたが、質の良いリードが不足していたために苦戦していたのだ。彼らが集めた名刺の束は役に立たなかった。細いパイプラインしかない状態で営業担当者をたくさん抱えていたということだ。

 マーケティングとPRによってリードの数はあったが、ほとんどは大企業ではなく中小企業だった。

 私は学生時代に住宅のペンキ塗りのビジネスをしていたときを除けば、だれかの家のドアをノックするような仕事をした経験はなく、セールスフォース・ドットコムに入社するまで、営業もリードジェネレーションも経験したことはなかった。

 しかし、何も知らなかったおかげで、かえって新鮮な視点を持ち込むことができたのかもしれない。何度かコールドコールをやって、時間の無駄だとわかったのですぐにやめた。たんに嫌だったからではなく、まったく効果がなかったからだ。電話の相手も嫌がっていた。もっと楽しく、面白く、生産的な方法があるはずだった。