初心者も恥ずかしがり屋も、思う存分楽しめる<br />「一回完結」のピアノ教室を始めた理由

いつか、ピアノが弾けるようになりたい!」と、ピアノへの憧れは大きいのに、いざ習うとなるとハードルが高く感じてしまいます。ピアノレッスンには「しっかり練習しなければならない!」「教室にずっと通い続けなければならない……」などと考えてしまいます。
楽譜がよめなくても90分でいきなりピアノが弾ける本』の著者monaca:factoryさんは「もっと気軽にピアノを楽しんでもらいたいのに、なかなかそのアプローチがない」と嘆きます。
今回は自身もピアノレッスンを実施している同氏に、もっと気軽にピアノを楽しむコツについて詳しく話を聞いてみました。(取材・構成/イイダテツヤ)

「一回で終わるピアノ教室」とは何か?

――ピアノレッスンというと、子どもの頃から習い始めてずっと練習を続けるイメージがあります。それにもかかわらず、こうした本を出そうと思ったのはどういう思いからだったのでしょうか。

monaca:factory(以下、monaca):僕は昔から、ピアノのレッスンが長期的に学ぶアプローチしかないことに疑問を感じていたんです。おっしゃる通り、子どもの頃から習い始めて、何年も続けるイメージです。

 僕とピアノとの出会いは、小学1年生のころです。近所のピアノ教室に「通わされた」んですね。「発表会に出たくない、嫌だなぁ」と思いつつも、やめずに続けていたんです。でも、中学生になったころ、好きなゲームの曲を弾くようになったら、途端にピアノが楽しくなったんです。

 だからこそ「ピアノを弾いて、おもしろかった!」という体験にはいろいろな形がありえるはずです。

 たとえば、ヨガのレッスンに行って、90分やってみたら「楽しかった」「気持ちよかった」と思うことってありますよね。そこから長期的に続ける人もいるでしょうけど、その一回で終わる人もいます。それはその人しだい。別に「必ず5回通わなければいけない」「3年通わないとヨガは楽しめない」なんてことはありません。そのたった一回でもヨガを楽しむことはできるはずです。

 ところが、ピアノのレッスンは長期的なプランしか基本的には用意されていない。それに対して、僕のやっているレッスンは「一回で終わるエンタメ」なんです。

――たしかに「一回で終わるピアノ教室」って聞いたことがないですね。

monaca:そうなんですよ。言ってみれば、カラオケだと思ってるんです。カラオケは何回も通うことが前提じゃなくて、その場、その場で歌うことを楽しむものですよね。

 カラオケへ行くのに、わざわざボイトレ(ボイストレーニング)をする人って、ほとんどいないですよね。カラオケ行くから、ストレッチして、発声して……なんてあり得ないですし、ボイトレに3年通ってからカラオケデビューするなんて人はいません。

 その場でエンジョイできれば、それでいい。カラオケってそういうものじゃないですか。もちろん、カラオケをやってみた延長で「もっと歌がうまくなりたい」と思ってボイトレに通う人もいて、それはそれでいい。

 ところが、ピアノを弾くとなると、カラオケのように楽しめる機会はほとんどなくて、みんなボイトレに通う方式になってしまっているんです。

ピアノが「好きになれなかった」人でも楽しめる!

――それはわかりやすい対比ですね。本当はカラオケ的に楽しみたいのに、いきなりボイトレをしなければいけない。ピアノレッスンはそんな感じなんですね。

monaca:本当にそうです。僕自身、高校時代はカラオケに行くのが本当に恥ずかしくて「絶対にカラオケなんか行くもんか!」って思ってたんです。

 でも大学に入ったときに、カラオケが苦手な友だちと一緒にカラオケに行く機会があって、それからちょっと楽しくなった。すると「そいつの前だけでは歌う」ようになったんです。うまく歌う必要はまったくないですし、この曲を歌わなければいけないとか、そんなこともまったくない。ただ、自由に楽しめばいいだけです。

 僕がやっているピアノレッスンはまさにそんな感じです。

 ピアノを楽しみたいけど、最初は全然うまく弾けない人ってたくさんいるんです。そんな人たちだって、ピアノを楽しめます。カラオケに興味があるけど、みんなの前で歌うのは恥ずかしい人と、一緒にカラオケに行く人。それが僕です。

 ピアノレッスンという意味で、僕はいわゆる「ボイトレ型レッスン」のプロではないし、一流のピアニストを育てようとしているわけではありません。

 なかには「子どもの頃にピアノをやっていて挫折した」「ピアノが嫌いになった」という人もいます。でも、そういう人たちも本当に心からピアノが嫌いになったわけではなく、できれば「ピアノを楽しみたい」と思っていることも多い。

 そんな人が楽しめるようにするのが僕の役割です。実際「ピアノ挫折者の駆け込み寺」みたいな感じでメッセージをくれる人もけっこういるんですよ。

――昔ピアノを習っていたけど挫折した人は多そうですね。

monaca:エレキギターやバンドを始めるのと違って、ピアノはどこか格調高いというか、貴族の楽器みたいに感じてしまいがち。すごくメジャーな楽器なのに、実はあまり大衆性がない。

 ギターを始める人は最近のポップスがきっかけであることが多いし、どれだけ古くてもビートルズあたりでしょう。

 でも、いざピアノを習うとなると、バイエルやエチュードの何番とか、つい格調高くなってしまう。

 これまでの「ピアノ教本」には、ピアノを弾く姿勢や、ト音記号・ヘ音記号といったことが最初の方に長々と書いてあるんです。

 これはピアノ教室のビジネスモデルの話でもあると思います。「ピアノを一日楽しんで終わり」ではビジネスにならないですから。その点、バイエルを一冊渡せば、数年間は練習してもらえます。

 そういった「ボイトレ」のアプローチ以外にも、もっと気軽に、すぐにピアノを楽しみたい人のための「カラオケ」アプローチもあっていいと思うんです。むしろ、ピアノ経験者も知らないような、自由な発想で演奏する方法が身につきますし。

 そういうことを『楽譜がよめなくても90分でいきなりピアノが弾ける本』では実践しています。

【大好評連載】
第1回 「かんたんに楽しく! 挫折しない!」今から始めてもピアノが上達する方法

monaca:factory
作曲家。ボカロP。
小学校入学とともにピアノをはじめる。教本の練習は嫌いだったが、中学生時代に自分で好きな楽譜(ファイナルファンタジーシリーズなど)を買って弾くようになり、音楽の楽しさに目覚める。高校ではブラスバンド部でチューバを担当。大学時代に初音ミクに出会い独学で作曲をはじめる。音楽活動と並行しIT系会社に就職、プログラマーとなるも、音楽への興味により2年目に退職。以降フリーランスの作曲家として活動を開始する。歌モノからBGM制作まで総制作数は12年間で500曲を超え、動画サイトで100万再生を超える楽曲も発表している。作曲と並行して都内でピアノレッスンを行っており、楽譜がよめない楽器未経験者でも1日でピアノが弾けるようになると好評を得ている。学びの楽しさを教えることが好きで、中学・高等学校の教員免許(英語)を取得。DMMオンラインサロンにて「音楽クリエイターになる学校」を運営中。著書に4万部を超えるベストセラーになった『作りながら覚える 3日で作曲入門』やコミックエッセイ『作曲はじめます!~マンガで身に付く曲づくりの基本』(共にヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)がある。
公式サイト:https://monacafactory.com
初心者も恥ずかしがり屋も、思う存分楽しめる<br />「一回完結」のピアノ教室を始めた理由