NHK「プロフェッショナルの流儀」で紹介され話題沸騰! 1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」の12代目経営者・細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書のエッセンスをお届けする。

他社とコラボレーションするときに、絶対に忘れてはいけないことPhoto: Adobe Stock

一サプライヤーとしては、仕事をしない

 西陣織のギルドがまさにそうなのですが、他者との協業においては、個々の職人のプライドと、お互いへのリスペクトが大事です。

 それがあって初めて、他者とのコラボレーションは対等なものになります。

 現代において、苦境にある伝統工芸を売り出そうと、有名デザイナーとのコラボレーションを行なう際に失敗することがありますが、その原因は、ここにあります。

 伝統工芸のプレーヤーたちは、「売れない」という苦しい状況に直面しているがゆえに、「先生お願いします!」と、自らの仕事の価値を低く見積もって、コラボレーションを頼んでしまうのです。そこには自らのプライドも、相手へのリスペクトも存在しません。

 細尾が他者とコラボレーションをするときに、決めていることがあります。

 それは「一サプライヤーとしては、仕事をしない」ということです。

 細尾にとっては、単に取引先を開拓することではなく、「対等なコラボレーションができるか」が重要なのです。それは細尾の職人、ひいては、西陣の職人の価値を守れるかという闘いでもあります。

 生地屋は往々にして、ブランドやメーカー、デザイナーへの「サプライヤー」として弱い立場になってしまいます。しかしそうなってしまうと、「言われた通りやってくれ」とか「値段はもっと安くしてよ」とか、相手はリスペクトのない振る舞いをしてきます。

 そうではなくて、対等にコラボレーションを行なうからこそ、自分たちも相手も想像すらしなかったような革新を起こすことができるのです。