仕事、人間関係…周囲に気を使いながらがんばっているのに、なかなかうまくいかず、心をすり減らしている人も多いのではないだろうか。注意しているのに何度も同じミスをしてしまう、上司や同僚といつも折り合いが悪い、片付けが極端に苦手…。こうした生きづらさを抱えている人の中には、「能力が劣っているとか、怠けていaるわけではなく、本人の『特性』が原因の人もいる」と精神科医の本田秀夫氏は語る。
本田氏は、「生きづらさを感じている人は『苦手を克服する』ことよりも、『生きやすくなる方法をとる』ほうが、かえってうまくいくことも多い」と言う。
本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』から今回は特別に、一部内容を抜粋、編集して紹介する。

【発達障害専門の精神科医が教える】正論で相手を打ち負かそうとしてしまう人の共通点とは?Photo: Adobe Stock

「自分の正しさ」を主張しすぎて、トラブルになることも

30代の技術職のDさんは、若いのに仕事の専門知識が豊富で、技術のレベルも高く、周りから評価されています。

ただ、あまりにも自信が強すぎて、人の意見をちゃんと聞けないことが問題になっています。個人としては優秀でも、チームで働いたときに、トラブルメーカーになってしまうのです。

自分の知識や技術に絶大な自信を持っていて、誰かが間違ったことを言ったときには、その相手が上司でも取引先でもお客さんでも、正論をぶつけて説得しようとします。相手に間違いを認めさせようとしてしまうのです。いつもそんな態度で働いているので、そこかしこで波風を立てて、問題になっています。

本人は「自分の主張が正しい」と考えていて、その点を譲る気はないのですが、結果として職場でさまざまなトラブルを起こしているのも事実なので、やり方を変えなければいけないとも思っています。

相手にも事情はある

「正論が通じない」と思っている場合には、2つの見方があります。

ひとつは「言っていることは正しいのに、それを聞こうとしない相手が悪い」という見方。もうひとつは「言っているほうは正論のつもりでも、いろいろな事情があり、現実的な話ではない」という見方。話しているほうにも聞いているほうにも、言い分があるのです。

「正論」というのは、筋道の通った正しい理論です。しかし、たとえ内容的に正しくても、相手側の事情として実行するのが難しい場合もあります。

仕事をしていくなかでは、スケジュールや予算、人員などの都合で妥協しなければいけないこともあるでしょう。そんなときに、正論を振りかざして相手を説得しようとしても、「無い袖は振れない」ということになって、埒が明きません。

そのような相手側の事情も考慮して、「自分の考えていることがいくら正しいと思っても、意見を押し通す必要はない」と考えを切り替えられると、トラブルが起きにくくなるでしょう。